僕が毎日利用している通勤電車は、そこが始発だったり朝早い時間だったりすることもあって出発時に座席が6〜7割程度埋まるくらいの混雑具合だ。
その電車は他の電車よりも冷房の効きが良く(僕比較)、座れないことは余程の不運が重ならない限りあり得ない。
暑がりで汗っかきの僕の汗すらも、ガンガンに効いたクーラーと落ち着いて座れることですぐに引いてしまう快適空間だ。
そんなわけで毎日その電車を利用しているのだけど、最近僕以上に汗っかきで暑苦しいおじさんが2人僕の乗車駅で乗ってくるようになった。
この電車の快適さがおじさんたちにバレてしまったのだろうか。
2人といっても一緒に乗り込んでくるわけではなくて、座席も離れて座るので知り合いでもなんでもなくてたまたま汗っかきの他人同士のようなのだけど、この2人の暑がる様子は暑がりということでは右に出るものがいないと自負する僕から見てもとても愛くるしい暑苦しい。
顔面をべっとりと濡らして滴り落ちる滝汗。
身体にピタリと張り付くシャツはどう見ても汗でびしょ濡れで酷く不快そうに見えるっていうか見ているこちらがとても不快だ。
乗車するなりタオルで顔面を拭う拭う拭う。
そりゃもう今拭わなくていつ拭うのって感じだし、僕もほぼ常にタオルで顔の汗を拭き拭きしているので親近感。
でもその親近感もそこまで。
その後2人ともシャツのボタンを4つ目くらいまで外して、腹まで見えるほど大きく胸をはだける。
混んでいないとはいえ一応電車の中だ。
今まで顔面を拭っていたタオルを大きく開いた胸ぐらから豪快に突っ込んでわしわしと脇の下や腹や胸や背中の汗を拭きまくる。
突如拡大するプライベート空間にこちらがいたたまれなくなる。
それぞれ下着は着ているものの、汗で張り付いたそれからは見たくもないおっさんの乳首がくっきりと浮き出している。
なぜ僕は朝っぱらからおっさんの乳首を見せつけられなくてはならないのか。
こういうのは何ハラといえばいいのだろうか。
ブルブルと揺れる弛んだ段々腹が浮き出し震えるのを何故見せつけられなくてはならないのか。
こういうのは(ry
見たくなければ見なければいい。
それはインターネットの世界においても朝の通勤電車の車内においても正論である。
僕は正面で胸をはだけて身体を拭き続けるおっさんから目を背けた。
右隣に顔を向けるともう1人のおっさんが同じように身体を拭き拭きしているのが視界に入る。新手の嫌がらせなのだろうか。
残された空間は左側のみ。
いつも座っている席はドア横の席なので左側は大抵誰かが立って手すりに寄りかかっている。
しかもそれはほぼ常に女性だ。
左側ばかりに顔を向けていると僕はその寄りかかっている女性のお尻を凝視しているように周囲から見えてしまう。
実際問題として左側は視界を遮られて他に見るべきものがないので、仕方なくお尻を眺めていると本人にはお尻に注がれる視線がわかってしまうようで女性から変態を見るような目で睨まれてしまう。
おっさんの乳首を避けるために僕が変態扱いとは哀しすぎる。
こんな理不尽なことがあっていいのだろうか。お尻は見ていたけれど。
そりゃもちろんおっさんの乳首を見せつけられるよりも女性のお尻を見ている方が圧倒的に幸福なのだけど、だからといって変態扱いに甘んじていては恥ずかしくてもうこの車両には乗れなくなってしまう。
この電車は冒頭にも書いたが、冷房の効き方と座席の空き具合が絶妙な事に加えて、この車両は乗り換えにも超絶便利なのである。
できることならこの電車も車両も変えたくはないのだ。
こうなれば耐え難きを耐え忍び難きを忍ぶしかない。
車内で乳首丸見えで身体を拭きまくるようなおっさんたちに敵うわけがないのだ。
僕は俯いて自分のカバンを見つめながらじっと時が過ぎるのを待つしかなかった。
暑い暑いと念仏のようにぶつぶつと呟きながらゴシゴシと身体を拭くおっさんたちの発する音と気配を正面と右から微かに捉えておっさんの乳首がフラッシュバックする悍ましさに耐えながら。
...やはり明日から車両を変えようか。