[ま]僕と猫 @kun_maa
僕の家には猫がいる。
子どもが飼いたがり保護猫を引き取ったのだ。
生まれつきなのかどうか知らないけれど片目が白目だけしかなくて見えない。
家に来てからもう2年ほど経つのだけどいまだに物音に敏感で少しでも大きな音がすると驚いて固まってしまうから保護される前に恐ろしい目にあったのかもしれない。
誰かが来ても家族以外には姿を見せないので人間のことは信用していないようだ。
この猫、僕は世話をしていないということもありこちらを居候か何かだと思っている節があって普段は僕の存在を全く無視している。
こちらに近づいてくるのは空腹なのに他に誰もいない時の餌のおねだりと僕が元気ない時だけ。
そうなんだ。
いつも知らん顔しているくせに僕の元気がない時にはなぜかこいつはすり寄ってくる。
最初の頃は腹が減っているのかとも思ったのだけど、どうやらそういうわけではないらしくて気まぐれで立ち去るまでただただ寄り添うだけ。
落ち込んだ日が続いた時などは一時的に仲良くなったような気がしたこともあった。
でもそんな時に限って廊下で寝転がっている猫に気づかず蹴飛ばしてしまったりしてまた疎遠になるという一歩進んで二歩下がる的な水前寺清子。
さらに元気がなくて落ち込むことなんて日常的なことではないのでほぼ没交流を維持したまま僕と猫の関係は築かれてきたと言っていい。
ところが...である。
最近になってこいつが妙に馴れ馴れしいというか距離感。
僕のことを無視してきたのにどうしたというのだろう。
今までは近づきもしなかった僕の部屋の前で座って待っていたり僕が風呂に入ろうとすると浴室に潜り込んできて出窓の所に寝そべって高みの見物を決め込んだりする。
たまたまドアを閉め忘れていた僕の部屋に忍び込み布団の上でくつろぎながら僕を待っていた時には驚いたおまえ彼女かよ。
そんなに最近の僕は元気がないように見えるのだろうか。
もしかして自分では気づいてないけど重い病気にでもなっているんじゃないか。
猫にはそれがわかっていて或いは僕の寿命が見えていたりして...なんて僕との距離感がおかしくなっている猫を見て心配になってくる。
あれ?もしかして僕死ぬのか...?
昨夜はなんか考え事をして寝るタイミングを逸してしまったのだけどちょっとうとうとした隙に顔の横に猫がしゃがみこんでいた。
自分の鼻先を僕の顔に近づけてくんくん匂いを嗅いでいる猫の気配に気づいて目を覚ましたのだけど彼女の見える方の片目と目があって急に愛おしさがこみ上げてきて胸の奥がグッときた。
僕は寂しかったのかもしれない。
そしてそれがわからなくなるほど心が疲れていたようだ。