あの未来のディストピアを描いた「1984年」で有名なジョージ・オーウェル。
彼の短編集のタイトルになっている中心的な作品にして「1984年」に負けずとも劣らず有名な作品がこの「動物農場 ーおとぎ話ー」だ。
動物たちを主人公にした寓話で社会主義革命後のスターリン体制下におけるソ連邦の権力機構が腐敗していく様を農場に見立てて滑稽に描いている。
年老いた豚で農場中の動物たちの尊敬の的であるメージャー爺さんが見た夢と予言、そしてその予言を実現するための扇動的な演説からこの物語は動き始める。
動物の一生は悲惨な奴隷生活であると断じ、そのような生活をせざるを得ない元凶は人間の存在であると扇動するメージャー爺さん。
「人間」こそ、われわれの唯一の、真の敵である。人間をこの農場より追放せよ。しからば、飢餓と過労の根源は、永久にとり除かれるであろう。
この物語に登場する動物たちはお世辞にも賢いとはいえず、そこがまた人間っぽくて親しみやすいところなのだが賢くない故に刺激的な言葉に安易に扇動されてしまう。
人間以外のすべての動物は平等であるとして豚を中心に蜂起した動物たちは農場主の人間たちを実力行使で追い払ってしまう。
立派な理想を掲げて動物たちが自ら運営する「動物農場」は動物たちみんなにとって素晴らしい社会となるはずだった。
しかし力と賢さを持たない理想主義は権力志向の前にもろくも崩れ去っていく。
次第に権力を手中にして農場を支配していく豚たち。
情報を統制し賢くない動物たちが気がつかないうちに主義主張を改変することで豚にとって都合のいい社会にしていく豚たち。
何か変だなと思いながらもそれを主張することができずに人間の代わりとなる豚たちの支配を受けいれる動物たち。
豚の中での権力闘争とその権力争いに敗れた豚に対する猛烈な批判と事実の捻じ曲げ。
独裁者となった豚は農場内部に問題が起こると動物たちの関心を作り上げた外敵に向けさせ、すべての問題は自分たちではなく外敵が悪いのだと思い込ませる。
そして徹底した情報操作で事実を動物たちから隠し、都合が悪くなると人間に統治されていた最悪の時代に戻りたいのかと不安を煽る。
それに比べれば今の生活はとてもいいのだと思い込ませて人間たちの時代以上に動物たちを酷使し彼らから搾取していく。
最初に僕はこの作品のことを「社会主義革命後のスターリン体制下におけるソ連邦の権力機構が腐敗していく様を農場に見立てて描いている」と紹介した。
オーウェルはおそらくそのような意図でこの物語を書いたのだろうが、このような権力が腐敗していく様子と権力者の行動パターンは何も旧ソ連に限ったことではない。
登場する動物たちを他の時代、他の国の人物に当てはめても十分に通じるのではないだろうか。
権力者となった豚は情報を独占し狡猾に立ち振る舞う。しかしそんな権力者に疑問を感じながらも黙々と従ってしまう動物たちの姿こそが哀れであり愚かであり自分がそうではないとは言い切れないモヤモヤとした気分を感じさせられる作品なのである。
権力を腐らせるのは結局愚かな民衆なのではないかという問題意識を思い起こさせるからこその名作なのだろう。
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