[ま]ぷるんにー!(พรุ่งนี้)

ぷるんにー(พรุ่งนี้)とはタイ語で「明日」。好きなタイやタイ料理、本や映画、ラーメン・つけ麺、お菓子のレビュー、スターバックスやタリーズなどのカフェネタからモレスキンやほぼ日手帳、アプリ紹介など書いています。明日はきっといいことある。

[ま]谷川小唄と彼女のお弁当と涙 @kun_maa

高校、大学と山登りをしていた。

中でも谷川岳は東京から近いことや難易度の高さからよく登りに行った。

高校生のときには禁止されていた冬の谷川岳を目指し、大雪に阻まれて1日下山が遅れたために遭難騒ぎを起こした。

そして今もなお大学の先輩と後輩がひとりずつ静かに眠っている山でもある。

 

谷川岳登山の最寄駅である土合駅に行くことができる上野からの夜行列車はかなり前に廃止されてしまったが、僕が大学生の頃はまだギリギリ存在していた。

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当時つきあっていた彼女は僕が山登りに熱中することをあまり快く思っていなかった。当時はもちろん携帯電話なんてものは存在せず、一度山に入ってしまえば全く連絡が取れない状態は当たり前だったし、彼女は僕が山に行っている間、心配で夜眠れないのだとよく愚痴をこぼしていた。

 

それでも僕が長期間山にこもるときには必ず手作りのお弁当を持って上野駅まで見送りに来てくれた。

お弁当といっても翌朝山に登る前の腹ごしらえのためにサクッと食べるためのものなので、おにぎりと簡単なおかずが数品のシンプルなもの。

 

僕は山仲間の手前、気恥ずかしくていつもコソコソとホームの外れでお弁当を受け取りながら彼女との別れを惜しんだものだった。

山に向かう前の彼女との別れの時間は、いつも胸がぎゅっと締めつけられるように苦しくなった。そんな思いをするくらいなら山なんてやめてしまえばいいのにって何度も思ったけど、結局僕は最後まで山を捨てることができなかった。

 

もしかしたらもう会えないかもしれないと思うと、とても悲しくて本当にバカだなあって自分でも思っていたけれど、毎回見送りに来て駅のホームに取り残される彼女のつらさや悲しみを察することができるほど大人でもなかったんだ。

 

だから僕が谷川岳を思うとき、そこには土合駅の地下階段と険しくて脆い一ノ倉谷の岩壁と猛烈な吹雪、そして彼女の涙とお弁当が必ずセットになっている。

 

山に入ってしまうと当時の僕は非情なまでに目の前の岩壁や雪山のことしか考えることができなくなって、下山するまで彼女のことを思い出すことはほとんどなかった。

あの頃僕はそれくらい真剣にのめり込まないととても生きて帰れないんじゃないかと思うような山ばかり登っていた。

彼女のことはとても大切だったけど、僕の心の深淵を埋めることができるのは命がけの登山だけだということも感覚的に知っていた。

 

そんな僕が山にいるときに彼女のことを思い出したのは、山仲間の間で代々歌い継がれていた「谷川小唄」っていうズンドコ節を山の中で仲間と歌っているときだけだった。

その唄を歌っているときにだけ、ふっと彼女の涙を思い出して胸が締めつけられるように切なくなったのを今でも忘れない。

谷川小唄(作詞・作曲 不詳)

  1. 夜の上野のプラットホーム 可愛いあの娘が涙でとめる とめてとまらぬ俺らの心 山の男は度胸だめし トコズンドコ ズンドコ
  2. 泣いちゃいけない 笑顔におなり たかがしばしの別れじゃないか 可愛いお前の泣き顔見れば ザイルさばきの手が鈍る トコズンドコ ズンドコ
  3. いきなチロルよ ザイルを肩に 行くぞ谷川 ちょいと一ノ倉 仰ぐ岩壁 朝日に映えて 今日はコップか 滝沢か トコズンドコ ズンドコ
  4. 行こうか戻ろうか南稜テラス 戻りゃ俺らの心がすたる 行けばあの娘が涙を流す 山の男はつらいもの トコズンドコ ズンドコ
  5. 歌うハーケン 伸びろよザイル 何のチムニー オーバーハング 軽く乗っ越し目の下見れば 雲が流れる本谷へ トコズンドコ ズンドコ
  6. 急な草付き 慎重に越せば やっと飛び出る国境稜線 固い握手に心も霧も 晴れて見えるはオキノ耳 トコズンドコ ズンドコ
  7. 右に西黒 左にマチガ 中に一筋西黒尾根を 今日の凱歌に足取り軽く かけりゃ土合も はや真近 トコズンドコ ズンドコ
  8. さらば上越 湯檜曽の流れ さらば土合よ 谷川岳よ またの来る日を心に誓い たどる列車の窓の夢 トコズンドコ ズンドコ

 

結局、僕は再三の彼女願いを聞き入れることなく山に登り続け、彼女は僕の元を去っていった。

彼女は今どこで何をしているんだろうか。あの頃はたくさん心配をかけてしまってごめんなさい。そしてありがとう。

僕なんかよりずっと幸せに暮らしていてくれたらいいなって心から思っている。

 

あの頃よりも交通手段はずっと便利になったのに、谷川岳は随分遠くになってしまった。僕があの山に登ることはおそらくもうないだろう。

そう思うとやっぱり切ない。

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