[ま]督促OL修行日記/ブラック部署でも生き抜く技術 @kun_maa
もともと人に強くものを言うことが苦手で、コミュニケーション能力も高くないという著者が飛び込んだ「督促」現場での体験が、その重く切ない内容とは裏腹におもしろおかしく書かれている。
それにしてもストレスフルな職場だ。
「今からお前を殺しに行くからな」
お客さまはそう言うと、プツリと電話を切りました。
でも、私の職場ではこんな言葉を言われるのは日常茶飯事です。(P.10)
著者は督促の仕事を始めてから半年で体重が10キロ減り、ストレスが原因のニキビがまるで火傷のように顔中にできたり、毎晩夜中に高熱を発して睡眠不足に陥るなどストレスとの戦いに明け暮れながらも、仕事を続ける。
職場の人たちは心身に不調をきたしてどんどん辞めていく。そして、それを埋めるように採用される人たち。誰かが倒れたら代わりの誰かが補充される。
まるで人を使い捨てにしていくような仕事のあり方に疑問を感じ、そのような状態に対抗する方策を模索していく著者。
督促という仕事が原因で心を病んで仕事を続けられなくなり、それが原因で結婚も破談になってしまった同期の女性のことをきっかけに著者はこう思う。
仕事ってなんだろう?
お金を稼ぐために、生活をしていくために、しなければいけないものだけど、人生にとって仕事がマイナスになっちゃダメなんじゃないの?仕事が原因で働けなくなるとか、幸せじゃなくなるというのはおかしいんじゃないだろうか。(P.135)
やがて著者は、先輩社員の督促の方法をまねしたり、自分の苦手分野を人に依頼し、代わりに自分の得意分野を引き受けたり、回収率を上げることができないとわかれば電話をする回数を増やす工夫をしたり、いつどこから矢が飛んできて突き刺さるかもしれないという古戦場のような職場でさまざまなテクニックを身につけていく。
「約束の日時は相手に言わせる」
「人間の脳は疑問を投げかけられると、無意識にその回答を考え始めるという性質を利用して金を返せと言うのではなく、相手に質問を投げかける」
「いきなり怒鳴られた時に固まってしまったときはグッと足に力を入れると金縛りが解ける」
「電話の時は先に謝ってしまう」
「自尊心は消せないが埋めてしまう」
「謝罪とお礼の黄金比率」
「正攻法でうまくいかなければ裏道を探す」
自分の頭で考え、人から学んできたことから身につけた著者のテクニックの一部だ。
そして、最大の対抗策は自分は謝罪するプロだという意識を持つことだという。
督促や、コールセンターの仕事は「感情労働」と呼ばれる。
肉体労働は体を使って仕事をしてお金を得る。頭脳労働は頭を使って生み出したアイデアなどでお金を得る。そして、感情労働は自分の感情を抑制することでお金を得る。
「プロ」とは、それでお金をもらう。たとえお客さまに理不尽な言葉で罵られたって、「私は督促のプロだ、これで食べてるんだ!」と思えば仕事のうちだと割り切れる。
プロ意識を持つこと。これは他人のためではなく自分の心を守るためにも役立つ一つの手段なのだ。(P.145)
この境地に至るまでの彼女の苦労と日々の戦いはどれほどのものだったろうか。察するにあまりある。
そしていつしか彼女は気がつく。
古戦場のようなコールセンターで働くうちに、いつの間にか自分の体にはたくさんの言葉の刃が突き刺さっていた。でも、その1本を引き抜くと、それは自分を傷つける凶器ではなく剣になった。その剣を振り回すと、また私を突き刺そうと飛んでくるお客さまの言葉の矢を今度は撥ね返すことができた。それから、仲間を狙って振り下ろされる刃からも仲間を守ることができるようになった。そうか、武器は私の身の中に刺さっていたのだ。(P.233)
督促現場という特殊な仕事に留まらず、多くの悩めるサラリーマン、OLへの仕事で生き抜くためのヒントにあふれた力づけられる一冊である。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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