こんにちは!健康保険の毎月の天引き額に驚きを隠せない @kun_maa です。
医療費の増大が国の予算を食いつぶす。
総医療費を抑制しなければ国家の危機。
よく新聞やニュースなどで見聞きするフレーズです。
しかし、日本の医療費は対GDP比で見た場合わずか7.9%に過ぎず、先進国中最低だという統計結果が出ています。
これは、国民皆保険制度により診療報酬が低く抑えられていることが大きな要因です。
この制度により、誰もがどこでも均質な医療を安価に受けられるという理想的な状態が創出できたと言えます。
しかし、この「診療報酬を低く抑える」制度は、患者が増えて医療が高度化・複雑化するほど人手が必要となる現代では、支払われる医療費が採算ベースに乗るものではないため、病院の赤字経営を招き、医療従事者の過酷な労働環境を生み出すという負の面が強調されてきています。
医療技術が進歩して、救える命が増えて寿命が延びるほど、総医療費は増えていき、病院側の設備投資や人件費は膨れ上がっていくのに、それに見合う財源がなく、診療報酬を低く抑えて対応しようとすることは、近い将来日本の医療を崩壊させることに繋がりかねません。
「『病院』がトヨタを超える日(北原茂実 著)
著者はいまの日本の医療に最も欠けているのは「産業としての医療」という視点だと述べています。
医療はタダではありません。そこには必ずお金が介在します。お金が動くということは、すなわち医療も産業なのです。この単純明快な原点を曖昧にしてきたからこそ、現在の医療崩壊が起こっている。私はそう考えています。(中略)
約300万人もの人間が従事する「産業」として捉え直してみると、これほど有望な成長分野もありません。むしろ、うまく輸出産業化することができれば、自動車産業や家電・エレクトロニクス産業を超えて、日本の基幹産業になる可能性さえ秘めています。 P.14
そのような考えを持った著者は、東京都八王子市にある自身の病院を核として様々な医療改革に取り組んでいます。
患者の視点に立った病院設計、入院患者家族の院内業務への参加、ボランティアシステムの構築と、その活動を院内で使用できる地域通貨「はびるす」を発行することにより現行制度内での医療費の患者負担軽減と医療の信頼回復、そしてボランティア活動を通した「健康に対する意識改革」を実践しています。
また、駅ビルや大型商業施設でのワンコイン(500円)から受診できてしまう簡易人間ドックを導入し、ちょっとした空き時間に保険証も医師も必要ない検査を実施しています。
これは、いわゆる「医療」ではなく、保険診療でもないため医療費の削減と、医師の負担軽減(本来の診察に専念)につながる画期的な手法です。
著者は、これらの活動を通して八王子で「病気にならない街づくり」という成功事例を達成することが国内での目標となっています。
なぜなら、どんなに理想論を唱えたとしても、経済的に成功しない事例は誰もやろうとはしないからです。
病院経営として成功し、患者のためにもなり、地域の経済も活性化するという成功事例ができてこそ、それが日本中に広まる可能性が出てくるのです。
著者の病院のHP
詳しくは本文を読んでいただいた方がいいと思いますが、国民皆保険制度は日本に安価な医療を実現し、復興期にあたる時期にはとても有意義な制度であったけれども、すでにその役目は終え、現代の日本においては弊害の方が大きいという主張です。
それでは、もしも国民皆保険の「全国どこでも、同じレベルの医療を同じ料金で受ける」という原則を取り払ったらどうなるでしょうか?
具体的には、診療報酬制度を全廃するか、ある程度ゆるめて部分的に自由競争を取り入れた場合、なにが起こるでしょうか?
まず、アウトカムの開示が可能となります。どの病院が優秀で、どの病院がそうでないのか、自分の通っているあの病院は信頼に足る医療を提供しているのか、といった点が、数字によって客観的に判断できるようになります。
また、自由競争が取り入れられれば、同じ検査や手術であっても医療機関ごとに価格差が出てくるでしょう。
こうして価格とサービスの関係が明らかになったとき、初めて患者さんが本当の意味で「病院を選ぶ」ということができるようになるのです。 P.71〜72
インフォームドコンセントの理念そのものは正当なものですが、それも十分な総医療費があってこそ成立するのです。慢性的な人員不足に悩まされ、まともに寝る時間さえないままに働く医師たちにアメリカ並みのインフォームドコンセントを求めたところで、結局は医療の質を低下させるだけです。
国民皆保険による「安さ」が、どれだけの代償の上に成立しているのか、私たちは一度きちんと考えるべき時期に来ているのではないでしょうか。 P75〜76
そのうえで、著者は次のように提案をします。
もっと根本的な問題として、どうして彼らは「総医療費の高騰が国を滅ぼす」と考え、ひたすら総医療費の抑制に努めるのでしょうか?
答えは簡単で、医療を「産業」として見ていないからです。
医療をなんの儲けも生み出さない、税金を食いつぶすだけの「施し」と考えているから、低く抑えようとする。総医療費を減らすほど経済がよくなると考える。
しかし、医療を「35兆円規模の巨大産業」だと考えたら、少子高齢化の時代に向けてこれほど有望な成長分野もないことがわかるはずです。
別に、税金や保険料を上げる必要はありません。まずは株式会社の医療参入を認めること。医療法人という縛りをなくすこと。医療を「施し」から「産業」に変えること。これだけで状況は劇的に変化します。 P.85
そして、日本の医療を産業化するための具体的な方策について著者の考えを示していきます。
この部分は、かなり賛否両論になると思われます。
実現は困難を極めるのじゃないかと感じましたし、医療を自由競争化した場合に必ず引き合いに出されるアメリカのような貧富の差によって受けられる医療が格段に違う社会になるという意見に対する反論部分が日本人の国民性に頼っているところや、セイフティネットの在り方など、賛成できない部分もありますが、考え方としては刺激的で魅かれるものがあります。ぜひ多くの人に読んでもらいたいと思いました。
著者は、日本の医療を産業化するために、カンボジアでの成功事例の実践に取り組んでもいます。
不幸な内戦の結果、白紙状態となってしまったカンボジアの医療の実情に対して、日本の医療を教育や環境施策も含めたパッケージとして輸出し、そこでの圧倒的な成功事例を、日本に逆輸入し、頑強な日本の医療制度に風穴を開けようとする試みです。
「施し」ではなく、日本の基幹産業としての医療。
アメリカの実情を反面教師とした新たな日本発の医療産業にこそ、今の日本を覆う閉塞感を払拭する可能性があるという著者の意見と、その意見を裏付けようとする様々な取り組みには驚かされるとともに、非常に共感できる部分も多く、日本の医療制度の問題点を自分のこととして考えさせられる一冊です。
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