ここのところ右目の視野の中に丸い輪になった影のようなシミのようなものが見える。
実際にはそんな模様は存在しないのだけど白い壁などを見たときにけっこうくっきりとわかるようになって不安がムクムクと湧き上がってきた。
その影のようなものは日によって見え方に軽重がある。
きっと疲れ目とかそんな類のものかなとそのままにしていたのは僕の怠惰と怖いことは見て見ぬ振りをしようとする小胆さゆえのこと。
そんなものが見えるようになってかれこれ1ヶ月ほど経ってしまった。
先日、キャラメルを食べたら割と大きめな歯の詰め物がごっそり外れてしまった。
そのままにしておくと残った歯が欠けてしまいそうで慌てて歯医者に行くことにしたのだけど予約が午後しか取れず朝から治療しに行く気満々で仕事を休んだ僕は思わぬ空き時間ができた。
そうだ眼科へ行こう...そう思った。
早速ググって見つけたその眼科は清潔感と笑顔の素敵な看護師がいる駅近くのまだ新しそうなクリニックだった。
受付で症状を説明し初診時の基礎的な検査(視力、眼圧など)をしてから医師の診察。
改めて医師に症状の説明をすると何回か瞳の奥を角度を変えながら覗き込んだ後でさらなる検査の指示が出た。
その検査は瞳孔を開きっぱなしにして行うということで散瞳剤を点眼されて効き目が出るまで暫く放置。
何度か笑顔の素敵な看護師が瞳孔の開き具合を確認した上でさらに追加で点眼。
どうやら僕は体質的に瞳孔が薬で開きにくいらしい。
最初の点眼から約40分後、ようやく瞳孔が開きっぱなしになった僕は網膜の断層写真と眼底写真の撮影を行った。
瞳孔が開ききった右目はなぜか1枚膜がかかったように視界がぼやけてしまう。
普通に見える左目との視覚差で不思議な空間に見える待合室。
さっきまで僕がいた同じ空間とは思えずまるで違う世界に放り込まれたような不安が首をもたげる。
こちらとあちらの世界の狭間で見てはいけないものが見えてしまいそうでビクビクしていた。
診察が終わった後の帰り道で時々何かが見えてしまったような気がしたけど怖いから忘れることにしたくらい違和感ありまくりでビビっていた。
たっぷりと時間をかけて検査画像を見せながら医師が説明してくれた僕の病名は
両目が「加齢黄斑変性(前駆状態)」
右目が「中心性漿液性網脈絡膜症」というものだった。
病名が難しい漢字だらけで覚えられないから思わずiPhoneを取り出して説明資料を撮影しようかと思ったくらいだ。
終わった後で病名を書いたメモをくれたけど。
加齢黄斑変性というのは加齢によって網膜の中心部である黄斑部分に障害が生じて見ようとするところが見えにくくなる病気らしい。
僕の場合はまだ発病する前段階ということで「前駆状態」という診断。
あまり聞いたことないけど欧米では成人の失明原因の1位らしい。
現状では治療を要するという段階ではないのだけど治療することになったら眼球に注射をするのだと恐ろしいことを何でもないことのようにさらっと医師が言った。
目玉に注射って...震えた。
右目の「中心性漿液性網脈絡膜症」というのが右目の視界に見える影らしきものの原因のようだ。
これは先ほども出てきた網膜の黄斑部分に網膜剥離が発生する病気だ。
網膜に栄養分を供給している脈絡膜の血管から血液中の水分がにじみ出て黄斑部に溜まることで網膜剥離が起こるのだけどほとんどの場合は自然治癒するらしい。
原因は不明だけどストレスが悪影響を及ぼしていると考えられているそうだ。
加齢黄斑変性は喫煙が一番悪影響を及ぼすらしいのだけど僕は禁煙してもう4年が過ぎたのでこれ以上タバコの止めようがない。
網膜内の老廃物を排出して黄斑変性の進行を遅らせるために少しは効果があるかもしれないと目薬を1種類処方された。本来の用途とは違うのだけど副作用としてそのような効果があるのだという。
中心性漿液性網脈絡膜症の治療には末梢循環改善薬が処方された。
これを飲むと脈絡膜の循環障害が良くなり水分がにじみ出なくなるそうだ。
病名がはっきりするとその時から気分はすっかり病人になってしまうのだけどなんだかわからないものに怯えているよりはいいのかなと思う。
病名がわかったところで根本的にすぐに治す方法はなく対処療法にならざるを得ないようなのでこのまま加齢とともに緩やかに見えなくなっていくのかもしれない。
そう考えるとやっぱり怖い。
医師からはストレスに気をつけて(ストレスのない人間はいないから難しいけどねって苦笑しながら)、紫外線を避けるようにと言われた。
次の診察は2週間後。
病名を説明されて真っ先に医師に確認したのが「アルコールは控えた方がいいのでしょうか?」だったのは我ながら浅ましいと思う。
いい影響についても悪い影響についてもエビデンスはないからどちらでもいいですよとは言われたのがせめてもの救いか←