哲学というと何やら小難しいことを言ってそれが人生に役立つ人生論のように捉えられている節がある。深いい話的な。
哲学者の言葉を切り取って名言集のようにまとめた本が売れたりしたことからも哲学=人生論というイメージは根強い。さらに人生論どころか自己啓発書的な本まである。
本書によれば過去には確かにそのような一面が哲学者によってはあったことを否定しないが、現代の哲学者たちが人生論としての哲学を語っているかというとそんなことは全くないという。
それでは現代の哲学者たちは何を語っているのか。
そこを解き明かしていくのが本書である。
本書では僕のような素人にはまったく馴染みのない現代哲学者たちの名前を多数挙げながらまず現代哲学の大きな潮流について概観していく。
それは意識の分析を扱う17世紀の「認識論的展開」であったり、言語の分析を扱う20世紀の「言語論的展開」であったり、その後の「ポストモダン」やそれに引き続く「自然主義的展開」や「メディア・技術論的展開」、そして最も注目されている「実在論的展開」であったりする。
概観とはいえそれぞれの議論についての説明はかなり難解であり一度読んだだけではとても理解できない。何度も同じところを読み返してしまったし、本当に理解するためには別に参考書が必要だ。
ただ現代哲学の潮流が「いかに生きるべきか」とか「人生とはなんぞや」なんていう人生論的なものを扱っていないことははっきりとわかる。
現実社会との接点である社会問題を哲学的な視点から論じようとしているのだ。
本書では現代哲学の潮流を概観した上で彼らの言葉を借りながら著者が現代社会の課題について次の6つのテーマ(問題群)に分けて見解を述べている。
- 哲学は現在、私たちに何を解明しているか?
- IT革命は、私たちに何をもたらすか?
- バイオテクノロジーは、私たちをどこに導くか?
- 資本主義制度に、私たちはどう向き合えばいいか?
- 宗教は、私たちの心や行動にどう影響をおよぼすか?
- 私たちを取り巻く環境は、どうなっているか?
これら6つのテーマは相互に結びつきながら現代社会の状況を描き出しており、現代を理解するための便宜的な切り口であるとも著者は語っている。
その便宜的な切り口を通して哲学の広い視野と長いスパンでのアプローチを活かした問いかけの視点で現代社会の諸問題に対する著者なりの考え方のたたき台を提供していると言っていいだろう。
本書の帯には「『世界最高の知の巨人たち』が現代のとけない課題に答えを出す」などと書かれてはいるが本書を読んでも課題に対する正解なんてものは得られない。
すっきりと正解が"与えられる"ことを期待しているとそれは裏切られることになる。
そこには様々な哲学的視点でそれぞれの問題の見方や考え方が示されているだけだからである。
そもそも哲学とは自分の頭で考えて考えて考え抜くことであるとすればこのような諸問題に対する哲学の視点からの問題提起と議論のたたき台を示すことで終わるのは必然なのかもしれない。
知ること、考えることの大切さや楽しさを示してくれる本である。
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