[ま]欲望の植物誌/操っているのは人か植物かとても興味深い一冊 @kun_maa
この本の主役は、リンゴ、チューリップ、マリファナ、ジャガイモという4つの身近な植物だ。ああ、日本でマリファナは違うか。もし日本在住のあなたにとってマリファナが身近なものだとしたら「おまわりさーん、こいつです!」だ。
この本では人間の持つ欲望と4つの植物の魅力が複雑に絡まり合って、どの視点から見るかによって、人間が植物を操って改良をしてきたのか、それとも植物の魅力に人間が操られて植物の進化を助けてきたのかはっきりとわからなくなる。
「甘さ」に対する欲望を「リンゴ」が、「美」に対する欲望を「チューリップ」が、「陶酔」に対する欲望を「マリファナ」が、「自然を管理したい」という欲望を「ジャガイモ」が、それぞれ代表して各々の物語を紡いでいく。
そこに綴られている物語は、人間からの視点だけではなく「植物の目を通して」描かれてもいく。しかもその描き方が独特で時間軸の幅の広さ、取り上げる物語の豊富さ、著者自らの体験談のおもしろさなど、通り一遍の物語の範疇には収まらないとても内容が豊潤でちょっと変わったおもしろさを持つ一冊となっている。
本書で描かれている4つの植物と人間の欲望のせめぎ合いは、「栽培」という言葉に代表されるように人間が自分たちの思うがままに植物を育て、改良し、収穫してきたというこれまで常識と思われていた視点から、これらの植物は人間が「栽培」したくなるほどの魅力をあえて備えた存在であり、その魅力によって巧みに自らの進化に人間の関与を組み込み、その結果、まるで人間の方が植物に操られたと思えるほど歴史や文化に影響を与えてきたのではないかという別の視点の可能性を示してくれる。
そして、人とこれらの植物との関係は、実は人間だけが一方的に植物に対して手を下してきたものではなく、「共進化」とも言うべき関係にあることをわかりやすく提示しているのである。
そういう意味では第1章〜3章までの「リンゴ」「チューリップ」「マリファナ」の物語と、第4章の「ジャガイモ」とエピローグとは性格を異にしている。
人間と植物の「共進化」の歴史を描いた第1章〜3章。そして人間の都合のみによる植物からの視点抜きの一方的な「遺伝子組み換え作物」の登場とそこに潜む漠然とした脅威を描いている第4章とエピローグ。
幅広いエピソードと深い知見によって人間と植物との長く豊かな物語を説いた後で語られる最後の章は、読者にとても多くのことを投げかけ、そして考えさせることになる。
それまでの楽しく豊かなエピソードは、最後の章をまじめに考えさせる為の前振りだったのではないかと疑ってしまうほどであり、最終章がおそらく本書のメインテーマなのだろう。
人間からの一方的な視点だけではなく、見方を変えた植物からの視点を本書で得たうえで、生命の多様性を狭め、進化の可能性をも狭めることとなる遺伝子組み換え技術と単一栽培についてどう考えていくのか。それが果たして本当に人間と植物にとって進むべき道なのか。
著者は我々に重要な問いを投げかけている。しかし本書を読んだ後では答えは明らかなのではないだろうか。
ありのままに共に生きよと。
植物に対して特段な興味がない僕ですらハマり込んで読み耽ってしまった一冊。
とてもおもしろい本であり、植物に対する見方が変わる本である。
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