タイトルの通り全くのゼロから、つまり原材料からトースターを作ってみたというクレイジーな体験が軽妙でユーモアあふれる文章で綴られている。
最初にタイトルを見たときは「は??マジで?」って思ったものだが読みはじめたらもう止まらない。本当におもしろい本だ。
結果的にどんなものが出来上がったのかは本の表紙を見れば一目瞭然。お世辞にもトースターと呼べるような代物ではない。
こんな不気味なものを作り上げるのにかかったコストは日本円で約15万円。店で同様のものを購入すればわずか500円である。どう考えても明らかに高すぎるコストだ。
しかしそうやってコストをかけながら、試行錯誤を繰り返しながら、そして時にはちょびっとズルをしながらトースターを作り上げる過程こそに価値があるのだ。
何の気なしに普段使っている電化製品の動く仕組みや原材料、生産工程や製造にかかるコストなどを気にする人は僕も含めてあまりいないだろう。
便利なものが安く手に入ればそれでいいとさえ思っている。大量生産・大量消費の世の中だ。それが物心ついた時から自分を取り巻く世界なのだから。
そんな我々の常識を根本的に疑うことにつながっていくのが、本書で著者が原材料を苦労して手に入れ加工していく過程とその行動の中で彼が感じた数々の困難と疑問点なのだ。鉄鉱石から試行錯誤の末に鋼鉄を精錬したり、ジャガイモのデンプンからバイオプラスチックを作ろうと苦悩してみたり、ミネラルウオーターから銅を抽出しようと鉱山の水を大量に自力で持ち帰ったりと、そんな肉体労働と柔軟な発想と苦労の末に作ったトースターから見えてきたものに僕らは自分たちを取り巻く大量消費社会の問題点を突きつけられることになる。
原材料からトースターを作り上げたってだけでもすごいことなのに(完成品は当初の計画とは大幅に違ってしまったけれど)、それだけで終わらないところが本書のおもしろさに深みを加えている。
ひとつのドキュメンタリー作品としておもしろいのはもちろんの事、見た目の悪い手作りトースターから現代社会の在り方に対して巡らす著者の思索は、日常に溢れる様々な工業製品に対する読者の見方を変えてしまう力を秘めているのだ。
軽快で読みやすい訳文もおもしろさに拍車をかけて、一気読み確実な素晴らしい本である。これを読まないなんて人生をちょっと損してるって思ってもらってもいい。
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