僕の初めての海外旅行は28年前。インドに1ヶ月滞在しました。
首都デリーから入国し、カルカッタ(現・コルカタ)から出国するという航空券を買い、国内の移動は主に鉄道を使いました。
初めての海外旅行でインドに来たというと現地で出会ったほとんどの旅人に驚かれる驚かれる。インドをなめていたわけではないのですが結果的に様々な洗礼を受けることになり、その経験は僕のその後の旅のあり方を形づくる上でかなりの重みをもつことになります。振り返るととても自由で貴重な旅でした。
そんなインドで一番気に入った街はヴァラナシ(英語名:ベナレス)というガンジス川沿いの街。この街はヒンドゥー教の聖地のひとつとして有名で、この街の沐浴場で水浴びをするために多くの人々が集まってきます。
僕もそれほど長居するつもりはなかったのですが、気がついたら1週間ほどこの街で沈み込むように過ごしていました。もしかしたら何か不思議なものに引き寄せられていたのかもしれません。街を立ち去る決心をするのが大変だったくらい。
ヴァラナシでは、インド人と結婚して現地で宿屋をやっている日本人の久美子さんが経営している「クミコハウス」という日本人の溜まり場のような宿に泊まり、毎朝日の出前に小船に乗り、ガンジス川で沐浴するインド人を眺めていました。
外国にある日本人の溜まり場的な宿はあまり好きではないのですが、この宿だけはとても居心地が良かったな。
ヒンドゥー教ではガンジス川で沐浴をすると輪廻転生から外れて、天国に行けるといわれているそうです。とても熱心に水浴びをする多くのヒンドゥー教徒の姿に朝日が当たる光景はそれまで見たことのない神々しさを醸し出していました。
夜明け前からみんな真剣に沐浴をしています。
最後をガンジス川で迎えたいと願う死にかけた人々も各地から集まってきます。そんな人たちは路上で物乞いをしていることが多いのでヴァラナシの街はとってもインド的なカオスの世界。
普通のインド人、牛、猿、乞食、旅行者、詐欺師、野犬、人殺し、怪しい修行者、ジャンキー、物売り、障害者、病人、老人 etc. 香辛料の香り、ゴミの臭い、マリファナの煙、シタールの音色、車のクラクション、お香の香り、人の焼ける臭い...
ガンジス川の夜明けはヒンドゥー教徒でもないのになぜか涙が出るほど不思議で厳かな雰囲気。
あの独特の空気は現地でないと味わえない。
死体は川沿いの焼き場で焼かれて灰はガンジス川に流されます。毎日毎日、途切れることなく多くの死体が焼かれていきます。
子供や焼き場の薪代が払えない者は、焼かれることなくそのままガンガーに流されます。すべてを呑み込んで滔々と流れる大河ガンジス。清濁併せ呑む聖なる川。
焼き場は誰でも見ることができるので僕は毎日毎日死体が焼かれていくのを見ながら、色々と考えに耽っていました。
毎朝ガンジス川沿いで繰り広げられる壮大な沐浴を見学したあとに立ち寄って、朝食代わりのチャイ(インド式ミルクティ)を飲んでいたのが、このおじさんの店です。
店といってもご覧のとおり川沿いの掘っ建て小屋です。
もちろん水道設備などないので、食器はガンガーの水で洗っています。
この店のチャイは他の店と比べて抜群においしかったのですが同宿の日本人連中は、ガンジス川の水で作っているから上流の焼き場から流した人骨の灰が入っていい隠し味になっているに違いないと噂していました。
人の灰やら輪廻の輪から解脱したいと願う人々の念やら腐った死体のエキスや発酵したゴミや様々な物や想いを呑み込んだガンジス川の水で作ったチャイを飲んだ僕もいつか解脱できるのでしょうか。
すごく懐かしいなぁ。
そしてもうあんなハードな旅はできないかもしれないと思うと、人はその時その時にできることをしっかりやらないと、後からやろうとしてもできないことが多いってことに気づかされます。それは旅に限られたことじゃなくてね。
こんなとき刹那を生きることの大切さを思い知るのです。
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