[ま]同じ夢を見る @kun_maa
どこかアジアの国の片田舎と思われる風景。
大きな木が点在し木陰をつくる中をまっすぐに伸びる車道だけが舗装されている。
車道の両脇は赤茶けた土がむき出しになり飯屋や雑貨屋の掘っ立て小屋が数件並んでいる。
掘っ立て小屋の裏手には小さなドブ川が流れていて、風に乗りヘドロ臭や果物が発酵したような饐えた汚水の臭いが時折漂ってくる。
頭上にはじりじりと照りつける太陽。
車道を走る車はなく人も歩いていない。
周囲に音はなく、僕はいつも独りでバックパックを背負いそこに立っている。
恐らくタイかインドの地方都市間の街道沿いだろうと思うのだけど特定はできない。
実際に見た記憶があるような無いような朧な記憶の影法師。
頭の片隅にいつか僕はその場所に確かにいたのだという記憶の残滓。
それと同時にあれは想像の産物、或いは記憶の混濁だという曖昧模糊とした思い。
宙ぶらりんで不安な気持ちを抱きながら僕は掘っ立て小屋のひとつに近づいていく。
狭い間口から中を覗くと薄暗い室内の棚に缶詰や小さな箱や瓶がまばらに並んでいるのがぼんやりと見える。
そして姿は見えないけれど奥の方に人の気配を感じる。
僕はその気配に声をかけようとするのだけど声が出ない。
突然大きな音を立て排気ガスを撒き散らしながら背後の道を通り過ぎるバス。
いつの間にか手に提げている粗雑な赤いレジ袋から覘くさらに鮮やかに赤いランブータンの実。
色を失った世界に映える赤い記憶。
僕はあのバスに乗らなければいけなかったのだとハッとして振り返ると、すでにバスの姿はなく僕はまた独りでどことも知れぬアジアの片隅の道端にポツンと立ち尽くしている。
こんな夢を僕は繰り返し見る。
あまり何回も見るので目が覚めているときでもその風景をありありと思い出すことができるくらいだ。
それでもあれがどこの国なのか、いつ見た風景なのか、それとも実際には見たことがないのか僕にはわからないままだ。
あの夢が何かを暗示しているのかそれとも失われた記憶の断片なのか僕自身の欲求の表出なのか。
あの夢を見るたびに何か心に引っかかってモヤモヤとする。
そして旅に出たくなる衝動的な心の波紋に僕はいつも戸惑う。