僕は新聞を購読していないのでこの連載についてはまったく知りませんでしたが、朝日新聞の土曜別刷り「be」に毎週「悩みのるつぼ」という人生相談コーナーが掲載されているんだそうです。本書はその人生相談の回答者の1人である岡田斗司夫氏への相談と回答をベースとした本です。
人生相談とその悩みへの回答をベースにはしていますが、本書は単なる人生相談本ではありません。岡田氏らしい理路整然とした「問題に対する思考法」のプロセスについて詳細に記述されていることで「問題に対する考え方」を学べる本です。
確かに、それぞれの悩みに対する著者の回答は素晴らしい。
ある意味、そこら中に転がっているお悩み相談の概念を越え、「なるほどそんな視点があったのか」「その考え方はまったくなかった」と感心させられる回答が多いです。
そして、本書を読むとあの素晴らしい回答は、こういう思考過程を経て生み出されているのかと目からウロコが落ちる思いを味わうことができます。
他の回答者の長所や弱点を分析し、誰よりもおもしろい独自の回答を書きたいというところからスタートした著者の人生相談に対する戦略。
多くの人生相談に見られるような性急な解決策の提示をするのではなく、あくまでも相談者の立場に立ち、同じ感情を共有し、相談者の文章の表層に現れている悩みの本質を掘り下げて、本当に彼・彼女が求めている「言葉」を見極めていくという姿勢はとても新鮮で、共感しました。
悩みをすべて解決することなんてできないけれど、相談者に対する「愛」を持って、相談者、そしてその背後に存在する同様の悩みを抱えた多くの読者の悩みを少しでも軽くしようとする著者のブレない方針と、それを可能にするための思考方針とプロセスが余すところなく記述されているのが本書の魅力であり、本質の部分です。
例えばそれは、相談者の文章を疑って分析し、本心の部分を示す証拠を見つけ出すことであり、必ず相手にとって可能で具体的な行動を提示することであり、自分だけ安全地帯にいて上から目線で考えるのではなく、相談者と「同じ温度の風呂に入る」と表現しているような共感方法であり、絶対に相談者の味方になるという立場への固執だったりします。
著者は悩みについて次のように述べています。
いきなりですけど”悩み”とは何でしょうか?
「複数の問題がこんがらがった状態」これが”悩み”です。
個々の問題は単純なんですね。でも、それらがこんがらがってしまう。こんがらがって互いにリンクして、まるで解決も考えるのも不可能に思えてしまう状態。それが”悩み”です。
その上で、この”悩み”を個別の「問題」に戻すことが”悩み”に対する最短アプローチだとしています。さらに、そのために取り得る手法についても具体的に書いてあります。
加えて、こんがらがった状態から仕分けした個別の問題の中でも、解決可能な問題しか考えないことが深い悩みへの対処法であるとも。
確かにそのとおりだと思います。解決できない問題をあれこれ悩んだところでどうしようもありません。でも悩んでいるときはこれが自分でわからなくなっちゃうんですよね。
だからこそ、こんがらがった問題をひも解き、今すぐ対処しなければならない解決可能な問題だけにフォーカスするという手法はとても有効なものだと思います。
その他にも、悩み相談に対する回答をつかむための著者なりの思考ツールや、愛人としてふさわしい能力や家族関係・恋愛の本質を突く鋭い考察、効果的な仮説の立て方、個別の問題を「人間の持つ普遍的な問題」にまで掘り下げて考えることの必要性など、最後まで知的好奇心を刺激しまくるおもしろい本でした。
”いかにも”なタイトルからは伺い知ることのできないほど濃い内容の本であることは間違いありません。
現実問題として”悩み”を抱えている人から、論理的な思考法をわかりやすく知りたい人まで幅広く多くの方におすすめしたい一冊です。

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