[ま]ぷるんにー!(พรุ่งนี้)

ぷるんにー(พรุ่งนี้)とはタイ語で「明日」。好きなタイやタイ料理、本や映画、ラーメン・つけ麺、お菓子のレビュー、スターバックスやタリーズなどのカフェネタからモレスキンやほぼ日手帳、アプリ紹介など書いています。明日はきっといいことある。                     

[ま]映画「アラビアのロレンス 完全版」/ロレンスはヒーローじゃないしこの作品は英雄譚ではない @kun_maa

アラビアのロレンス」って有名な映画だから、タイトルくらいは誰でも聞いたことがあるんじゃないかな。

オリジナル作品は、1962年のイギリス映画。

それを1988年に再編集を行って20分追加したものが、今回僕が観た「アラビアのロレンス 完全版」です。 「完全版」とかなんか最強な感じ。

 

僕もこの映画のタイトルくらいは昔から知っていたし、ロレンスっていうのはアラブ人の独立のために戦った「勇敢なイギリス人兵士」だという、ざっくりとした人物像も頭にこびりついていました。だから僕の中では、まだ作品を観てもいないうちから、なんとなくロレンス=英雄(ヒーロー)っていうイメージがあったんですよね。

タイトルだって「アラビアのロレンス」なんていかにもって感じでしょ。

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イギリスとフランスの2つの大国が虎視眈々とその覇権を広げようと狙っている中東地域において、アラブの猛者どもを率いて勇猛果敢にオスマン帝国軍を攻め立て、アラブの独立に貢献する英雄ロレンス!

中東の覇権を得るために目障りなオスマントルコに対抗するためにアラブ民族の反乱軍に肩入れするイギリス軍にあって、自国の利益のためではなくアラブの民のために戦った男ロレンス!

かっこいいぜ!ロレンス!アラビアの英雄ロレンス!

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そんな僕のロレンスに対するイメージは、実際に作品を観ることで粉々に砕かれました。

たしかに彼は作品の中で、部族間対立ばかりでまとまりのないアラブ人たちに対して「アラブ」としてまとまることを強調し、民族としての独立国家の設立を盛んに訴えていました。

そして彼らの信用を得るために、無謀ともいえるネフド砂漠の横断を成し遂げ、トルコ軍の背後を突いて要衝アカバを陥落させます。

そりゃ大活躍です。アラビアのロレンスですよ。

 

でも、大活躍をしている主人公であるはずの彼の姿には、根拠のない自信をまとった虚勢ともいえる態度がいつもにじみ、その根拠のなさが表情に出ています。

よく言えば憂いを帯びた目、僕が感じたままに言わせてもらえば挙動不審で信念のない神経質な目を常にしているように感じました。

そんなロレンスは、ヒーローではありません。信念なき男はヒーローたり得ません。

最初は悪党かと思ったハリト族の族長アリの方がよほど自信にあふれ、信念をもった鋭い眼光を持った迷いなきヒーローです。

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ロレンスとは、口先だけの根拠なき自信家の男が、たまたま無謀な作戦を上手く切り抜けてしまい、それまで変人の彼を持て余し気味だったイギリス軍内での立場が上がったがために勘違いをした痛い男にしか見えませんでした。

これは僕の期待が大きかった故の考えすぎでしょうか。

それともロレンス役のピーター・オトゥールの演技のまずさのせいでしょうか。

いや、そもそもこの作品はロレンスを英雄として描くつもりなんかなかったのではないでしょうか。

 

アラブ民族の独立という口車でアラブ人たちをその気にさせながら、自分自身はイギリス軍の言うがままに動かざるを得ない駒のひとつに過ぎず、せっかく育んだ彼らとの友情も破綻し、アラブ人にもイギリス軍にも見限られ、狂気をまといながら落ちぶれていくロレンスという男の姿が描かれているのです。

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オスマントルコの鉄道に対するゲリラ的破壊活動、略奪、撤退するトルコ軍に対する大虐殺。臆病者のくせに、血を見ると我を忘れて狂気をまとうロレンス。

アラブ人たちのことを分かった気になってアラブ人気取りでいい気になっていたら、実は何も彼らのことを分かっていなかったことに気づいていくロレンス。

そしてそれを自分の思い上がりのせいではなく、肌や目の色のせいにしている姿は、アラブ人を野蛮で無能な連中と嘲るイギリス軍のほかの軍人たちとなんら変わらないということにすら気づいていないロレンス。

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ずっと英雄(ヒーロー)だと思い込んでいたロレンスの、そんな情けない姿を見て僕はがっかりしました。全然かっこよくないよ、ミスターロレンス...

「メリークリマス!ミスターローレンス!」...は違う映画だ*1

 

では、この作品は見る価値のない駄作なのでしょうか。いや、違います。

随所に見られるトルコ人やアラブ人に対する侮蔑の表現、アラブ人たちが目先の利益を失えばまとまるわけがないと完全に決めつけて、舐めきったイギリス人の態度を描いているところや、狂気じみたロレンスの姿と憎しみ殺しあう人々。

 

そもそもこの作品自体がロレンスの英雄譚として描かれたのでなければ、そこで描きたかったのはきっと、1916年〜18年頃の第一次世界大戦真っ只中の、狂気に彩られた世界なのではないでしょうか。

そう考えると、現代の世界情勢や我々が抱くアラブ、イスラム世界に対する感情を踏まえて比較してみたり、ある時代の空気を切り取ってみせたり、それはまた違った視点でいい映画なのだと思うのです。

音楽も戦闘シーンも素晴らしいと思います。

 

それから、最初に知っておいたほうがいいと思うけど、この作品すっげー長いです。

前半と後半の間に休憩時間が設けられていたのにも驚きましたが、トータルで 227分とほぼ4時間の作品。

観るのも半日がかりです。見応えあります。アラブの砂漠に浸れます。気分はもう遊牧民のモスリム・ゲリラです。

ロレンスがヒーローとして描かれているだけの作品だったら、こんなに長い時間は必要ないと思えば、この作品の見どころも自ずと違ってくるのでしょう。 

アラビアのロレンス (字幕版)

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  • デビッド・リーン
  • 外国
  • ¥1000
アラビアのロレンス (岩波新書 赤版 73)

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「アラビアのロレンス」の真実: 『知恵の七柱』を読み直す

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*1:もちろんご存知「戦場のメリークリスマス」の有名なセリフですね。僕はあのセリフを言うビートたけしの、期待と諦めのない混ぜになったような切ない笑みが好きです!って関係ないか。