長男の就職先が決まった。
学生時代のバイト経験などを通して彼は彼なりに仕事に対して思うところがあるようで、ある特定の業界だけを目指してピンポイントで就職活動をしていた。
彼が街でよく見かけるような就活スタイルで出かけるところをほとんど見たことがなく、このままで本当に大丈夫だろうかと心配していたところだったが、最終的に3社から内定をもらうことができた。
そのうち1社はこういうとなんだけど、滑り止めというかなんというかそんな感じの位置付けで、業界はほぼ同じだけど仕事内容は興味ないという会社だったので早々に円満辞退(のはず)。
彼は残りの2社でどちらにするか迷っているように僕には見えた。
その2つは同じ業界の大手と中小。
居間でひとり飲みしていたところに悩み多き青年の相談を受けたとき、たぶん同世代の多くの親がそうするであろう大手に入社することを僕は何の迷いもなく妄信的に彼に勧めた。
僕は仕事で躓いてうつの休職経験もあるので、仕事や人間関係で上手くいかなくて煮詰まってしまったときに、大手なら逃げ場はいくらでもあるからさなどと言ってみたが、自分が希望した業界でこれからバリバリ仕事をしようという意気に燃えた若者の心にはそんな守り姿勢で負け犬の助言は何も響かなかったようだ。
実際に手がける仕事の規模や種類は大手と中小とじゃかなり違ってくるからね、大手にいった方がきっと多くの経験ができるし視野が広がるんじゃないかなと言ってはみたものの、僕が彼と同じ年齢の頃と比べてずっとアダルティな長男には、大手志向の俗物の戯言に聞こえたことだろう。
子に良かれと思うとどうしても安定志向になって大手の会社を勧めちゃうよね、だって親だもの人並みに心配するもの。
酒飲んで長男と今後の進路について話し合った。今どきの就活のいろいろおもしろい話も聞けたし、自分のやりたい仕事をすることの大切さや仕事を選べることの貴重さについても話し合った。いい時間だった。酔ってしまったからもう寝よう←
— Maa(หมา) (@kun_maa) 2019年9月6日
規模が小さい会社の方が大手よりも得意で力を入れている分野があって、長男はその分野でガッツリと取り組みたい仕事があるのだという。
酔っ払いの僕の意見に耳を傾けながら、その平凡すぎる主張に対して自分の考えをぶつけることで、彼の迷いは次第に消え去り本当に自分が望んでいることがより明確になっていったようだ。
そういう意味ではこんな老害の意見も役に立つのだよね反面教師?
すぐに自分が興味を持っている仕事ができるとは限らないよ。
いやむしろ希望が通らないと思っていた方がいいよ。
それでも腐らずにやり通せるかい?なんてネガティブな問いかけに、そんなことなんでもないよ大丈夫、俺は意外とメンタルが強いのだと答える長男。
少年野球でレギュラーになれなくても少しも不貞腐れることなく黙々と練習に励んでいた幼い頃の彼の姿が浮かんできた。
そうだ、そうだったんだよな。
自分のやりたいことがそんなにも自分の中で明確にわかっていて、なおかつそれを堂々と主張できることがなんとも羨ましく、そしてその若さが眩しくも頼もしく思えた。
僕なんてこの歳でまだ自分のやりたいこともわからずフラフラと迷い続けているのにね。
親がなくても子は育つ親がダメだと子は自分で考える。
そんなわけで僕と話をした翌日、息子は中小の会社に入社の意志を伝え、大手の会社に内定辞退の連絡をした。
卑俗な僕は大手を蹴ったことに少しだけもったいないなって思ったけど、最終的に自分の気持ちに従ってしっかりと考えて自分で決断することができた長男を誇りに思う。
I'm proud of you!なのである。
今度もし彼が冷蔵庫にある僕の秘蔵のクラフトビールに黙って手をつけたとしても、決して怒らないようにしようと思う。I'm proud of you!!なのだから。
そして、就職して少し金を貯めたら会社がある都内で独り暮らしするのだという希望あふれる青年の言葉に、これで都内で飲み過ぎても気軽に泊まれる拠点ができるなとほくそ笑むダメな親。
「子供より親が大事、と思いたい。子供のために、などと古風な道学者みたいな事を殊勝らしく考えてみても、何、子供よりも、その親のほうが弱いのだ」なんて一文を思い出して噛み締めながら。