不安で仕方ないとき苦しみの最中にいるとき病気で身体が痛むとき、誰かと手をつないでいると不安や苦しさや痛みが自然と和らぐ。
つないだ手の温もりに助けられたことが何度あったことか。
手をつなぐことで手の温もりが伝わるだけではなく苦しさや不安で押しつぶされそうなときに笑顔や元気や安心を運んでくれる。
そして心が温かくなる。
手を伸ばせば僕にも変えることができる小さな未来はきっとある。
僕たちひとりひとりの差し出す手の温もりが誰かの明日を変えるかもしれない。
家族や友だちや仲間と実際に手をつなぐのはちょっと恥ずかしい。
手をつなごうよと言うのもなんだかやっぱり照れくさい。
でも誰かと手を取り合ったり誰かに手を差し伸べたりすることはその人の心に寄り添いつながりを深めるコミュニケーションだから。
手をつなごうよと勇気を出して手を差し出しながら言いたい。
手をつなぐことで「誰かがやること」の「誰か」を「自分」に置き換えてしまおう。
その一歩を踏み出すことは誰にとっても簡単なことではないかもしれない。
照れだったり意地だったりしがらみだったり遠慮だったりがきっと邪魔をする。
僕は未だに誰かの手の温もりを必要とすることが多い。
誰かに手をつないでもらわないと死んでしまう回数はきっと一般的な大人の平均値よりも高いに違いない。
そんな平均値が存在するのかなんて知らないけれど。
そんな情けない僕でもいや僕だからこそぎゅっと握りあった手の存在の確かさに縋り付いて勇気を奮い起こした日々を忘れない。
手をつなぐことで自分の中に芽生えた多くの感情の温もりを忘れず恐れずこの手をいつでも差し出せる人でありたい。
そんなことを思いながら歩く日が落ちた冬の夕暮れ帰り道。
かじかんだ手をポケットに突っ込んでぎゅっと握りしめた。
冷たい指先が掌にくい込む感触に少したじろぎながら「だから僕の手を放さないで」と繰り返し胸の奥でつぶやいた。
いつまでたっても冷たいままの手をひとり握りしめたままで僕は。