[ま]浸潤する異空間 @kun_maa
通勤経路で古びたアパートが立ち並ぶ一画を歩いて通る。
複数のアパートが建っているというのにその辺りはあまり日当たりが良くなくて昼間でもなんとなく薄暗い感じがする。
それに加えてふたつの急な坂道に挟まれている場所なのでうっかりすると平衡感覚がちょっと狂うような感覚がしてお世辞にも住みやすいとは思えない。
そんなわけで以前から他の場所とは違う雰囲気が漂っているなと感じていた。
どこがどう違うのかうまく言えないのだけどその辺りに立ち入ると温度がスーッと下がったりじめっとして肌に湿気がまとわりついたりするような皮膚感覚に由来する違和感とでもいった感じだ。
そんな場所で最近さらに違和感を感じる出来事があった。
不思議な人影
薄暮に包まれたアパート2階のとある部屋の入口にゆらゆらと前後に揺れている人影が視界の隅に入った。
反射的にそちらに顔を向ける。
照明はなくて黒っぽい人の姿であること以外はよくわからない。
その人影は体を部屋の方に向けて立ったまま俯いてゆらゆらと揺れている。
辺りはまだ完全に暗闇に包まれる前の時刻だというのにそこだけ闇が濃く光が吸い込まれていくような不思議な感じがした。
僕は見てはいけないもの見たような気がして咄嗟に顔を背けて足早に立ち去った。
虚ろな顔で道端に座り込むおっさん
アパート近くの路上で虚ろな顔をしたおっさんがしゃがみこんで道路に顔を向けている姿に何回か出くわした。
その時々によって現れる時間や場所は異なるのだがいつも同じ格好をして何をするでもなくじっと動かずにしゃがみこんでいる。
日本人にしては少しエキゾチックな顔立ちをしているせいか見ようによってはアジアの街角でしゃがみこんで無為に時間を過ごしている胡乱な連中のようにも見える。
それにしてはあまりにも表情がなくその視線からは何の感情も読み取れないまるで空洞のような眼。
それは昔訪れたインドの路上で転がって死を待つだけの乞食の姿を僕に思い出させた。
しかしなによりも不思議だったのはそんな違和感たっぷりのおっさんに誰も注意を払わないことだった。
まるで道端の石ころのように道歩く人が誰も気にしないので見えているのは僕だけなんじゃないかという思いに囚われた。
夜中に階段に立ってこちらを見ている少女
それは酔っ払っての帰り道。
ある部屋のドアの前で荷物を広げて弁当を食べている男がいた。
こんな遅い時間になんでそんな場所で弁当なんて食べているのだろうと不思議に思い数秒見つめたところで別の角度からの視線を感じて振り向く。
道を挟んで反対側のアパートの照明もない暗い階段の途中に立ってこちらを見ている小学生くらいの髪の長い少女が見えた。
あまりにもアレな状況に声をあげそうになったがそういうとき実際には息を飲んでしまうので気持ちと裏腹に声は出ないものだ。
暗いし距離もあるので少女の瞳が僕を見ているのかどうかまではわからなかった。
僕が酔っ払って帰るような遅い時間にそんな場所で少女が独りでいるだけでも不自然なのに顔がこちらの方向を向いているなんて鼓動が跳ね上がるには十分だった。
弁当男は気になったが最早それどころではない。
僕は少女の存在に完全に気をのまれて慌ててその場から逃げ出した。
あのアパートが立ち並ぶ辺りだけが僕らの住んでいる世界とは別の世界とつながって異空間がこちら側に浸潤してきているような不気味な感覚。
まるでホラー映画の中で日常が確実に変容しているというのに、不吉な予兆が現れているというのに気付かずに生きている登場人物にでもなったかのような不安感。
これは僕の思い違いや思考の偏りあるいは現実逃避の成れの果てにみる妄想なのか。
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