仕事が休みの朝は5km程度走ることにしている。
そのくらいで日頃ビールをバカ飲みしている分が帳消しになるとは思ってはいないが何もしないよりはマシだろうし何より走ることは気持ちがいい。
春から初冬くらいまでは早朝に走っていたのだけど、最近は寒くて布団から出るのが遅くなり寝坊するものだから自然と走り出すのが遅くなっている。
朝の遅い時間帯に走るようになったらちょうど走り終わってクールダウンしている時に散歩をしているひとりのお婆さんとよく顔を合わせるようになった。
そのお婆さんに「おはようございます」と声をかけるといつも彼女は「あらあらとても背が高いのね」と返してくる。
僕の顔を覚えているのかどうかその表情からは読み取れないのだけど警戒はされていないということはわかる。
その後に続く会話はいつも同じだ。
僕「いやー、背ばかり高くなっちゃって」
婆「うちの主人も背がとても高かったのよ」
僕「そうなんですね」
婆「早く汗を拭いて風邪ひかないようにね」
僕「ありがとうございます」
そんな短い会話をほんの少し立ち止まってしてからお婆さんはそのまま歩いて行ってしまう。
何度も同じ会話なので最初の2〜3回はひょっとして僕のこと覚えていないのかな?って不思議だったのだけどその後も変わらないのでどうやら本当に僕のことがリセットされているに違いない。
白髪で背が小さくて痩せていてゆっくりと通りの向こう側から姿を現して歩き去るお婆さん。その姿はまるで妖精のようだ。
質素だけど清潔そうな服を着て意外と薄着なので僕の風邪の心配をするよりもお婆さんは大丈夫?と突っ込みたくなることもある。
名前や住んでいる場所も知らない、何回会っても僕の記憶が消去されてしまうその妖精のようなお婆さんと言葉を交わすのが走ることの楽しみのひとつになっている。
僕にしか見えてなかったらどうしようと時々割と真面目に思うのだけど。