誰かのことを好きになって二人の間で恋愛がはじまると、僕の心の中にその人のことを「好きだ!」って思う気持ちや「一緒にいたい」って思う気持ちとか、とにかくその人に対する温かな感情(これを愛情というんだろうか)でふくらんだ風船がどんどん増えていく。
著作者:All Vectors
初めの頃は増える一方の風船。このまま風船がなくなることはないんじゃないかっていつも思うんだ。
それがつまらないことでケンカをしたり、傷ついたり傷つけたりするたびに風船がいくつか割れていく。
もちろん仲直りをすればまた新しい風船が増えることもあるし、いい関係が続けば割れる風船よりもふくらんで増えていく風船の方が多くなることもある。
どんなに自分が相手のことを好きだって思っていても、相手に割られる風船がそれを上回る関係は正直しんどいし心が折れる。
それでもギリギリ風船が残り続けたり、なくなったはずの風船が何かの拍子に再びふくれたりすると腐れ縁なんて言葉で表現したりもするのだろう。
しばらく音沙汰のなかった彼女から電話があった。
実はその前にも2回ほど電話がかかってきたのだけど、タイミングが悪くて出ることができなかった。でもそういうことってあると思うんだよね。
そしていつもは歩きながらだと気がつかない着信に今回は偶然気がついたんだ。
電話に出た途端、「なんでこの間電話した時に出なかったの?」と暗く冷たい声が電話口から聞こえてくる。
別に悪いことをしていたわけではないので、正直にそのままの理由を伝える僕に対して、「じゃあその前は?」とさらに暗く冷たくなった声が返ってくる。
それにもできるだけ誠実にわかりやすく理由を答える僕。
そして「きみにはきみの仕事や生活があるように僕にも僕の生活があるんだよ。ずっと携帯を握りしめてきみからの電話を待っているわけにもいかないんだから、タイミングが悪くて着信に気がつかないことがあっても仕方ないじゃない」とつい余計なことを言ってしまった。
「それじゃ、わたしが電話できなくても電話に出なくても仕方ないね。もう会うのはやめよう」と静かに...だけどキレ気味にいきなり電話を切られた。
...そのとき僕の中で最後の風船が割れる音がしたんだ。
今まで何度も聞いてきたはずなのにすっかり忘れていた音。
久しぶりに聞いたその音はとても乾燥して何の感情も伴わないものだった。
ああ、終わったんだなって他人事みたいに思う僕がいる。
悲しくもなく、かといってもちろんうれしいわけでもなく愛情でふくらんでいたはずの最後の風船が割れる音。
僕はそのまま何事もなかったように立ち止まることもなく歩き続けながら、携帯電話をポケットにしまい、心の中で思い出したようにつぶやいたんだ。
「さよなら」って。
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