死んだ人間と生きた人間を会わせる窓口。それが使者(ツナグ)だ。
ツナグは、生きている人間から死んでしまった人間の誰に会いたいのか依頼を受け、死者と交渉する。
依頼した人間が死者と会えるのは、死者が会うことを了承したときだけ。
そして、生きている人間にとっても、死者にとっても会うことができるのは一度きり。
つまり1人の死者に対して会うことができるのは1人だけだし、生者もまた、その生涯で会える死者は1人だけ。
それがこの不思議な物語「ツナグ」の決まりだ。
描かれるのは5つの物語。
いずれも、死んでしまった人間に会いたいと願う生きている人間の物語。
ある者は自分が生きている意味を見出だせず、ある者は後悔の念に囚われ、ある者は待ち続けた人の死を知ることになり、ある者は自分の使命を受け入れていく。
死者に会うことができるという現実離れした物語であるにもかかわらず、それぞれの物語が丁寧な心理描写で語られることによって、不自然さを感じることなく静かに心にしみていく。
死者を呼び出すことは、生きている者のエゴなのかもしれない。
それでも、死者をとおしてしか知ることのできない、死をとおしてしか感じることができない「生」がある。
だからこそ死者は、残された生者のためにいるのかもしれない。
たとえそれが、生きている者を元気づけることだけではなく、時に絶望の淵に立たせることになったとしても。
小説全体をとおして、切なく透明感のある文体に引き込まれていく。
そして、ひとつひとつの物語が繫がったときに言いようのない感動に包まれる。
果たして自分だったら誰に会いたいだろうかと考えてみたり、悔いのない生き方をしたいと思わされたり。
死者をとおして生きるということを考えさせられる、優しくて心に残る作品である。
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