[ま]タイトルだけで敬遠している人は損をしている/死ねばいいのに @kun_maa
こんにちは!京極夏彦の作品を初めて読みました @kun_maa です。
なかなか衝撃なタイトルである。タイトルで引いてしまう人も多いかもしれない。
無礼な態度で人を不愉快にさせる若者ワタライ ケンヤ。
彼が突然現れて、殺されたアサミという女の話を聞きたいと言う。
話を聞きたいと言われた者は、当然戸惑い、警戒し、うろたえる。
1人目はアサミと肉体関係にあった元上司、2人目はアサミの隣人、3人目はアサミの情夫、4人目はアサミの母親、5人目はアサミの事件を担当している刑事、そして6人目は・・・。
「◯◯さんですよね、アサミのこと話聞かせて欲しいンすけど」
「俺、態度悪いっすか」
「オレ頭悪りーし、礼儀とか知らねーし・・・」
「怒鳴られるなら帰りますって。俺、人に無理強いできるほど偉くねぇすから・・」
ケンヤの態度はいつもこんな感じである。
なぜ、ケンヤはアサミのことを知りたがるのか。
ケンヤがアサミのことを聞いても返ってくるのは、みんな自分たちの愚痴ばかり。
本書に登場する人物は、誰もが問題を抱えながら生きている。
そして、誰もが利己的だ。
アサミについても所詮、自分が見たい、そう思いたいという部分しか見えていないし、都合のいい捉え方しかしていない。まあ、人間なんて多かれ少なかれそんなもんだ。
ケンヤに問われるまで、自分のことすらわかっていない。
ましてやアサミのことなど、なにがわかるというのか。
彼らがケンヤに対して語るのは、自分の生活や人生がいかに恵まれていないか、不運なのか、どうして自分だけが・・・。だってどうしようもないじゃないか・・・。
そんな彼らに対し、ケンヤの言葉は彼らの本質をえぐり出していく。
ケンヤにえぐり出される彼らの本質は、聖人君子でもない限り少なからず我々読者の持つ本質でもある。
そしてえぐり出された本質に気づかされることで、ある者は後悔し、ある者は本当の自分に気づく。読者もしかり。
本当にどうにもならないことなんかあるのかよ。
どうにかしようとしていないだけじゃないのか。
会社がイヤなら辞めればいい、離婚する気があるならすればいい、好きだと思っているならつれて逃げればいい、そうしないのはできないんじゃなくてしないだけだろ。
仕事を辞めたくないなら状況を変えればいい。状況が変わらないなら妥協すればいい。
妥協したくないなら戦えばいい。戦いたくないなら引きこもれればいい。
なんだって、やろうと思えばできるのに他人のせいにして、運のせいにして、文句ばかりで行動しようとしないだけ。
そんなにつらいなら、どうしようもないって言うなら・・・死ねばいいのに
そう、キーワードはタイトルでもある「死ねばいいのに」
ケンヤが会って話を聞いた人間は、ケンヤからそう言われても誰も死にたくないと言う。当然だ。
そんなこと言われて、本当に死んでしまったほうがいい人間なんているのか?
ケンヤが探し求めているアサミの真実とはなにか?
次第に明らかになっていくアサミという1人の女性に対して、もっと知りたいと惹きつけられていく。
そして、ついにすべては明らかになる。
この作品、文章のほとんどがその章の登場人物の一人称で書かれている。
心情の変化と「 」の会話だけで構成されているのに、その表現力は素晴らしい。
あらためて言葉の力と著者の文章力の力量に感服させられた。
本当におもしろい作品だ。
衝撃的なタイトルというだけで敬遠してこの作品を手にしない人は間違いなく損をしている。
Kindle版はこちら。