[ま]灼熱の魂/運命を呪いつつ母性の強さを思い知らされる秀逸な映画 @kun_maa
映画で他人の人生を疑似体験することは楽しみではありますが、それは時にとても辛い体験となることもあります。この映画もそんな作品のひとつ。
プールサイドで突然放心状態になりそのまま亡くなってしまった母親の遺言から、死んだと聞かされていた父親と存在すら知らなかった兄を探すことになる双子の姉弟の物語です。
母親の遺言は父と兄を探し出して母からの手紙を渡すこと。
それまでは墓石に自分の名前すら彫らないで欲しいという強い願いでした。
父と兄を探す旅は国境を越え時を超えて、風変わりだった母親の過去をさかのぼる旅となります。
母親との確執があったためか、弟は旅に出ることを拒絶し最初は姉だけが舞台となる中東の国へ。
物語はそこから母ナワルの回想シーンと、娘ジャンヌの母の過去を辿る旅とが交錯して描かれていきます。
母ナワルの若い時の役の女優と娘ジャンヌ役の女優の顔が似ているために少し混乱します。よく似ている女優を探したなあって感心。
そして観客もまた、ジャンヌや途中から旅に加わることになった弟シモンと一緒にナワルの生涯をたどることになります。
徐々に明らかになる母ナワルの壮絶な人生。
それは民族や宗教、宗派間の抗争、部族社会と人間の不寛容がもたらす血塗られた歴史を背景に理不尽な暴力の渦中にのみ込まれ翻弄されていったナワルのこれまで誰にも知られることのなかった切なく苦しい人生そのものです。
中東の某国(最後まで国名は出てきませんが、原作者の出身地がレバノンなので恐らくレバノンの内戦時代)での宗教や宗派が複雑に絡み合う内戦状態の中、ナワルはある理由からテロ組織に身を投じキリスト教右派の指導者を殺害して15年もの間、拷問が当たり前の監獄に収監されていたのです。
父への手紙と兄への手紙がなぜ別々でなければならなかったのか。
姉弟が最後にたどり着いたあまりにも残酷でおぞましい衝撃的な真実とは何か。
あの日、プールサイドでナワルが放心状態になったのはなぜなのか。
この映画のすごいところはすべての真実が明らかになったときに、それまでの断片的なシーンが一気に繋がる伏線の張り方の妙にあります。壮絶な人生の追体験に加えて張り巡らされた謎と隠された真実。
ジャンヌとシモンとともに謎に迫っていき、真実を知った時の観客の衝撃といったら。
まさに打ちのめされるという言葉がぴったりの作品です。
運命を呪いたくなります。
そして、それでも無償の愛を抱ける母性の強さを思い知らされました。
この作品は観客もジャンヌとシモンとともに真相に迫って行くことが醍醐味なので、ネタバレするとその衝撃もストーリーの素晴らしさも台無しになります。
そうならないよう気をつけて感想を書いたつもりです。
もし気になった方がいたら、ぜひ自分の目でナワルの人生をたどり、衝撃の結末を体験して欲しいです。そんなことを思わされた秀逸な作品。
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