[ま]ラヴクラフト全集 1 /「インスマウスの影」を含む4作品でクトゥルフ神話の世界へ @kun_maa
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトは1900年代初頭のアメリカの作家であり、1937年に46歳の若さで亡くなっている。
生前の彼は、作家仲間の間では評判が高かったにもかかわらず、世間一般的には評価されず、生前に出版された著書は本書にも収められている「インスマウスの影」という作品のみだ。
- 作者: ハワード・フィリップス・ラヴクラフト,原田雅史,森瀬繚
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2010/09/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ラヴクラフトの作品は彼の生前には一般的な評価はほとんどされなかったのだが、ゴシック・ロマンスの伝統をひきながらも独創的な怪奇小説の傑作と呼ぶにふさわしい作品を多く生み出しており、本書「ラヴクラフト全集 1」にはその中でも素晴らしい作品が収録されている。
- 作者: H・P・ラヴクラフト,大西尹明
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1974/12/13
- メディア: 文庫
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「訳者あとがき」によれば、ラヴクラフトが一般受けしなかったのは次のような理由によると書かれている。
H.P.ラヴクラフトは、当時のアメリカにおいて、他に匹敵するもののない怪奇文学の巨匠であったが、彼の作品が生前にもっと大ぜいの読者に迎えられなかったのは、超自然的な作品の売れる高級な市場がアメリカになかったいう事実ひとつによる。
つまり、時代が彼に追いついていなかったのだろう。
その後の怪奇小説やSF小説、アニメ、ゲーム、映画などの数多くの作品に影響を与えていると言われる、有名な「クトゥルフ神話」の創始者こそがラヴクラフトその人であり、彼の作品群であることからも、時代が後から彼に追いついたとも言えるのではないだろうか。
クトゥルフ神話についてご存じない方については以前紹介させていただいたこの本がとてもわかりやすいのでオススメである。
クトゥルフ神話とはどんなスタイルのものなのかを少々引用してみよう。
人類が生まれる遥か昔に地球にやってきた、超古代文明の邪神種族がいたという設定で、それをテーマにしたホラー小説の作品群が、クトゥルフ神話と呼ばれるものじゃ。
(中略)怪しい事件が起きて調べていくと、その陰には超古代の邪神たちの影があって、その信仰が今でも密かに引き継がれていて、怪しい邪神教団があって...というような形で書かれたホラー小説がクトゥルフ神話の基本。(クトゥルフ神話超入門 から引用)
クトゥルフ神話自体が、作品中の創作物であり、実際には存在しない神話や宗教なのだが、それがあたかも実在するように書かれているところに不気味な恐怖感を感じるのである。
例えば、作品中にしばしば登場する「マサチューセッツ州アーカム」という地名や、「ミスカトニック大学」や魔道書「ネクロノミコン」、邪神「ニャルラトホテプ」なんてのも、あたかも実在するかのようにしれっとそれらしく書かれていてクトゥルフ神話を実物らしく装飾している。
本書に収録されている「インスマウスの影」「壁のなかの鼠」「死体安置所にて」「闇に囁くもの」の4作品では、「死体安置所にて」は少々趣を異にするものの、他の3作品はクトゥルフ神話の世界観にどっぷりとひたれる傑作揃いである。
中でも「インスマウスの影」は、生前に唯一出版された作品だけあって、本書の中でも最もゾクゾクとする不気味さが味わえる。
後の時代の「半魚人」の基とも言える、魚と人の両方の特徴を持ったような両棲類的な怪物やそれらと人間の混血種などが登場し、その重々しい語り口と意味がわからない物事に対する根幹的な恐怖心を煽られる。
読後も、いつまでも心に残るインスマウスの町の不気味な雰囲気と、生々しい悪臭が匂い立つような怪物の姿にうなされそうになる作品である。
もちろん他の3作品も、いずれ劣らぬおもしろさ。
「壁のなかの鼠」では視覚と聴覚の両方を攻め立てられるかのような恐怖心を、「闇に囁くもの」では意外にもSF作品のような楽しみと例えようのない不気味さを、「死体安置所にて」ではクスッと笑ってしまうユーモアをそれぞれ感じさせられた。
ラヴクラフトって何者?クトゥルフ神話って何さ?という人で、ドキドキするのが好きな人にこそ、手にとってみていただきたい作品集である。
ドキドキするような怖いものが苦手な人にはあまりおすすめはできないけどね。
イア!イア!クトゥルフ・フタグン!フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リエー・ウガ=ナグル・フタグン!*1
- 作者: H・P・ラヴクラフト,大西尹明
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