[ま]ラーメンを通して見る戦後日本文化の現代史/ラーメンと愛国 @kun_maa
こんにちは!ラーメン大好き @kun_maa です。
「ラーメンと愛国」なんて変わったタイトルの本ですね。
普通に考えたら、このふたつの言葉が結びつくとは思えません。
本書はラーメンについて書かれた本ではありますが、ラーメンの歴史を塗り替えるような新説や美味しいラーメン屋の情報などが書いてあるわけではありません。
著者は本書についてこのように書いています。
「日本の戦後のラーメンの普及、発展、変化を軸とした日本文化論であり、メディア史であり、経済史、社会史である。(中略)筆者のラーメンへの興味、それは端的に言えば、以下の二つに集約される。一つはグローバリゼーション、二つ目はナショナリズムである。開国後の日本において、つまりグローバリゼーションのとば口である明治時代に中国から伝わったラーメンは、日本で独自の進化を遂げ、すっかり日本の料理となり、いつのまにか国民食と呼ばれるようになった。”国民食”と誰が言い出したのかは知らないが、それは何の疑問もなく受け入れられ、もはや定着した呼び名である。日本古来の食べ物でもなく、たかだか100年あまりの歴史しか持たないラーメンが、なぜこのように呼ばれるようになったか。それが、本書を書くに至った理由の一つである」(P.4〜5)
したがって、著者は日本の戦後文化の移り変わりの中でラーメンが果たしてきた役割と、変遷していく日本文化の中でラーメンそのものがどう変わってきたのかを丁寧に考察していきます。
丁寧な事実の積み上げの中から垣間見えてくるのは、敗戦、復興、経済成長、低成長、不況へと至る日本の国の状況が不思議なくらいラーメンという食べ物に映し出されていく姿です。
日本の「ものづくり」に対する伝統的な考え方とアメリカ型大量生産との比較、その代表例としてのチキンラーメンの成功。
なぜラーメンが日本人の国民食となったのか。
それは、戦後復興期を支えた世代、高度経済成長期を支えた世代、インスタントラーメンを最初に食べた団塊の世代、それぞれの世代間で分断はあるものの、いずれも貧しかった時代の想い出としてのラーメンという記憶が地層のように積み重なることで日本人全体が共有する共通意識に結実していったためだと著者は言います。
さらに、まるで郷土料理のように語られる「ご当地ラーメン」が、実は伝統的な郷土料理を駆逐した上に成り立っている戦後日本の均質化を代表する食べ物であるという捉え方。
それは日本の地方が個性的な文化を失ったことにより、フェイクとしての物語の上に成り立った「ご当地ラーメン」の真実でもあります。
そして、日本の伝統とは無関係に「和」や「日本の伝統」を強調する愛国的ナショナリズムを表面に装った「ご当人ラーメン」の潮流の説明では、なぜラーメン職人が作務衣を着て、頭にバンダナやタオルを巻き、ラーメンポエムのようなものを店内に飾るのかといったことを、バブルの崩壊やラーメン業界の産業化という問題も絡めて解き明かしていきます。
普段何気なく食べているラーメンに、これだけ日本の戦後文化の流れが反映されているのかと感心しながら、非常に興味深く読み進めることができます。
そして、ラーメンがいかに日本人に密接な存在なのか、それと同時にフェイクとしての歴史を物語としてまとうことを余儀なくされた特殊な食文化としてのラーメンの姿が見えてくる一冊です。
ラーメン好きの方はもちろん、戦後日本文化や消費社会に興味がある方にもおすすめの本です。