[ま]映画「39 刑法第三十九条」の巻 @kun_maa
第三十九条 心神喪失者の行為は、罰しない
裁判で心神喪失と認定された者は無罪、心神耗弱と認定された者は減軽の判決を受ける。
起訴前の鑑定で心神喪失・心神耗弱と判断された場合は不起訴になることもある。
心神喪失とは精神の障害のために「事物の理非善悪を弁識する能力(弁識能力)」がなく「この弁識に従って行動する能力(制御能力)」がない状態をいう。
心神耗弱とは心神喪失まではいかないけれど弁識能力・制御能力に問題がある状態を指す。
この刑法第三十九条をめぐっては主に罪を犯したものが罰を受けることなく社会に戻ってくるのはおかしいという被害者感情の点、また逆に不起訴となることで裁判を受けられなくなったり判決が無罪・減軽になったりすることは罪を犯した精神障害者の人権を侵害しているのではないかという点などから議論がある。
非常にざっくりと刑法第三十九条に触れたところで映画「39 刑法第三十九条」である。
マンションの一室で妊婦とその夫が包丁で刺殺された事件で作品は幕を開ける。
妊婦は滅多刺し、夫は首を絞められた上で一突きで殺されていた。
現場に落ちていたチケットから劇団員の男が逮捕されるのだが不可解な言動と動機の欠如から精神鑑定が求められて...
この映画、取り扱っているテーマが重たいし作品中で凄惨な死体が映されて「うわっ!」となる。
全体を通して重たい雰囲気をさらに重苦しく加速させるための演出が秀逸だ。
映像は全体的に薄暗く陰鬱であり登場人物の態度はとても辛気臭い。
さらに台詞が途切れ途切れになったり画面の半分が隠されていたり、画面全体が傾斜してみたり身体の一部分しか映さなかったりと、なにかこう観ている者の気持ちを不安定にさせてじわじわと不安感を煽る。
抑えた演技で淡々と描かれる精神鑑定人と容疑者とのやりとり。
小出しに明かされる問題を抱える主人公の日常や過去に起きた別の事件の情景。
そしてラストの法廷シーンではそれまでの抑えめな演出から満を持して解き放たれたかのようにドキドキする緊張感と興奮を味わうことができる。
緊張感溢れる法廷シーンの果てに明かされる容疑者の告白「僕が凶器を突き刺したかったのはこの理不尽な法律に対してだ」の重みを噛み締めるとき僕たちはこの作品の持つ意図を知る。
あなたはどんな風に感じるのか、僕は知りたい。
登場人物たちがそれぞれの過去を引きずりながらもこの事件を通して次第に表情や態度が変わっていく表現の仕方も見ていて感銘を受ける。
日本映画らしい細やかな演出で心に響く作品だと僕は思う。