この「天使のナイフ」という小説は、2005年の第51回江戸川乱歩賞受賞作品にして、著者である薬丸岳のデビュー作である。
13歳の少年3人によって愛する妻を殺害された過去を持つ男、桧山貴志。
刑法第41条と少年法の前に犯人である少年達は保護され、対照的に被害者遺族は事件について何も知ることができないまま理不尽な扱いに甘んじるしかないという現実。
桧山の受けた心の傷は、今なお癒えるわけもなく、ただ残されたひとり娘との生活を守る為に生きている。
国家が罰を与えられないならば自分が殺してやりたいとさえ思った犯人の少年たち。
ある日、彼らのうちのひとりが桧山の身近で殺害されたことから、この物語は動き始める。 突然の警察の訪問。あきらかに警察は桧山を疑っているが桧山はまったく身に覚えがない。
そして次々に殺害者の魔の手は桧山の妻を殺した元少年たちに伸びていく。
いったい誰が、何の目的で彼らを殺そうとしているのか。
桧山は真相を知るべく独自に動き出す。
その過程で知ることになる、元少年たちの過去と「更正」という名の凶悪犯罪者のその後の姿。
少年犯罪と犯罪を犯した少年が「更正」するとはどういうことなのかという重い問題を、被害者遺族の視点を中心に据えながらも多角的に描き出していく。
果たして、少年の可塑性を信じて立ち直りの為に多くの手助けを行うべきなのか、それとも犯した罪を償わせるべく厳罰に処することが必要なのか。「更正」のもつ意味とは何なのか。
本作は、ミステリーという手法をとりながら、社会問題としての少年の更正ということについて深く考えさせる作品なのである。
しかし、もしそれだけなら、こういう言い方が正しいかどうかわからないが、それほど珍しくもない安っぽい小説に過ぎなかっただろう。
この作品のすごいところは、中盤以降の二転三転するスピード感のあるストーリー展開と、緻密に張り巡らされた伏線によるいくつものどんでん返しにある。
まさに、傑作ともいえる練りに練られたすばらしいミステリー作品なのである。
そして、真実を追い求める桧山を待ち受ける衝撃の真実。
いや、これは決して大げさではなく、本当に衝撃的なのだ。
読んでもらえるとわかると思う。
全ての登場人物を傷つけずにはいられない、誰も無傷でいることはできないストーリーの見事さと用意周到に張り巡らされた伏線による負の連鎖の衝撃性。
なんてすごい作品を僕は読まずにいたのだろう。これを読まずに死ねるか!ってくらい見事な作品である。
そして個人的には僕が住む埼玉県が作品の舞台である為に、感情移入もハンパなかった。
読むほどに身悶えするようなすごい社会派ミステリー作品である。
そして、扱っている内容に反して読後感は爽快であった。
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