[ま]帰還兵はなぜ自殺するのか/終わりの見えないもうひとつの戦争 @kun_maa
アフガニスタンとイラクに派兵された兵士は約200万人。そのうち50万人がPTSD(心的外傷後ストレス障害)とTBI(外傷性脳損傷)に苦しんでいるという。
目に見える身体的損傷はなくても、精神が崩壊した多くの兵士たち。
ワシントンでは軍のお偉方による自殺防止会議が毎月開かれ、自殺した兵士の数とその状況から教訓を得て対策に役立てようとしているが自殺者は減る気配がない。毎年240人以上の帰還兵が自殺を遂げ続ける。
軍が巨額の費用を投じた帰還兵のための医療施設は収容者であふれ、入所できないものが大勢いる。そして運良く入所できた帰還兵の多くは抗鬱薬や抗不安薬、鎮痛薬などの大量複合投与で薬漬けにされる。
帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)
- 作者: デイヴィッド・フィンケル,古屋美登里
- 出版社/メーカー: 亜紀書房
- 発売日: 2015/02/10
- メディア: 単行本
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本書に主に登場するのはイラク戦争からの5人の帰還兵たちとその家族である。
彼らのうちの一人は本書が書かれた時点で既に戦士しており、生き残った4人の者たちは爆弾の破裂による脳への後遺症、敵兵を殺したことによる精神的なダメージによって心を病んでいる。
戦争で破壊されるのは敵だけではなく自分自身でもあるのだ。
破壊された自己との戦争は、兵士として任務に就いた実際の戦争よりもずっと長く、そして周囲の人間をも巻き込んで続いていく。
彼らの妻は「戦争に行く前はいい人だったのに、帰還後は別人になっていた」と語る。戦場で何があったのか、どうして彼らはそれほど苦しまなければならないのか。
帰国後に訪れた一見平和に見える家族との日々の裏で、自責の念と戦争の記憶に苦しむ帰還兵たち。
その絶望とも呼べる彼らの暗い怒りや虚無感は家族への暴力へと向かったり、自己破壊へと彼らを誘う。
当事者への綿密な取材による本書の描写は、それらの出来事をまるですぐれた映画のように緻密に描き出しており、場面場面の映像が浮かび上がるようである。
そこには書き手である著者の主張はなく、淡々と客観的な視点で登場人物たちの不条理な日常とあふれ出す感情、そして終わりの見えないもうひとつの戦争が描き出されている。しかし、これはフィクション映画ではなく現実なのだ。
苦悩しながらもなんとか平穏な日常生活を取り戻そうとあがき続ける帰還兵とその家族たちのそれぞれの姿。
苦悩に耐えられずに自殺を選ぶ帰還兵。
苦悩を抱えたまま喪失した人生を生き続ける者たち。壊れていく家族。
有効な対策を取ることもできず、まるで口先だけの言い訳じみた対応しかできない軍の上層部や政治家たち。
本書に描かれている世界のどこにも救いがない。
読み終えてどうしようもなく暗鬱とした気持ちになった。
帰国後も今なお続く彼らの戦争に平和的な終わりはあるのだろうか。それとも終わりとは死だけが持つ特権なのだろうか。
そんなことを僕がぼんやりと考えているこの間にも帰還兵たちの自殺は続いている。それが現実。
僕が彼らだったらと考えるのは愚かしいことかもしれない。
それでも考えてしまう。そして正気でいられる自信はもちろんない。
帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)
- 作者: デイヴィッド・フィンケル,古屋美登里
- 出版社/メーカー: 亜紀書房
- 発売日: 2015/02/10
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