[ま]ぷるんにー!(พรุ่งนี้)

ぷるんにー(พรุ่งนี้)とはタイ語で「明日」。好きなタイやタイ料理、本や映画、ラーメン・つけ麺、お菓子のレビュー、スターバックスやタリーズなどのカフェネタからモレスキンやほぼ日手帳、アプリ紹介など書いています。明日はきっといいことある。

[ま]朝が来る(ネタバレなし)/意外な展開に驚く予備知識なしで読みたい辻村深月の佳作 @kun_maa

おそらく子どもと手をつないで朝の道を歩いているのだろうと思われる表紙の写真と「朝が来る」というなんとなく前向きなタイトル、そして冒頭の平穏な家庭風景の描写に忍び込む無言電話という不穏。 

朝が来る

朝が来る

 

最初は、同じマンションに住む子どもの怪我をきっかけにしたご近所トラブルがこじれて恐いことになる話や、旦那の浮気でも絡むミステリーからの家庭再生ドラマなのかな?なんて思いながら読み進めていった。

 

ことさら幼稚園での子どものトラブルを強調する表現と、その後の陰湿でありがちな親同士の険悪な関係への発展を生活レベルの違いなどを絡ませながら丁寧に描いていることで、すっかり騙されてしまうと言ってもいい。

子どもを持って、こうしたトラブルに見舞われるようになって、佐都子は初めて、殴られたり蹴られたりの被害者だった方が圧倒的に楽なのだということを知った。問題は、我が子が加害者になった場合だ。

 

幼稚園のジャングルジムから、佐都子の子ども朝斗が同じマンションに住む友人の大空を突き落としたとされるのだが、朝斗本人はやっていないと訴える。

「・・・ぼく、押してない」

引き絞るような声が、使い古した雑巾のようにぼろぼろ穴が空いて聞こえた。見えなくなった目の色が、まだ同じ色をしているであろうことを思って、佐都子は胸をぎゅっと鷲づかみにされた気持ちになる。「うん」と答えていた。この子が泣いているのは、体が痛いわけでも、大空くんの泣くのが伝染したわけでもない。信じてもらえないからだ。

 

大空と書いて「そら」と読ませるところからも、相手の親がDQNっぽいことは容易に想像できるのだが、佐都子が朝斗を信じることで親同士のトラブルへと発展した時の相手の親の行動はまさにDQNすぎて、自分がこんな奴とトラブルになったらと思うだけでげんなりさせられる。

 

そして、朝斗を信じる気持ちと真実を知りたい気持ちとで揺れる佐都子の心情描写も秀逸だ。そんな場面をずっと読んでいれば、当然それが主題として進んでいくものだと思い始めたところで事態は急変し、冒頭の無言電話がクローズアップされてくる。

 

そしてその無言電話の主の正体は...想定外の展開に驚かされる。

僕はネタバレを良しとしないので、あえてその後のストーリーは説明しない。

ぜひ本作の良さをご自身の目で確かめてほしい。

 

前半の幼稚園のゴタゴタ話なんて、親子関係を表現するための軽い伏線でしかなかったことに驚かされる。

これは、後半で登場する「ひかり」という女性の存在感あってこその作品である。

しかし、その「ひかり」の心理描写はあまりにも切なすぎる。

女性の貧困問題や、男の身勝手さなどを考えさせられながらラストまで一気読みできる。っていうか一気読みさせられる。

 

一気読みした後で振り返れば、外見ほど複雑な話ではなく主題はシンプルだったことに気付かさせるが、そんなことを感じさせる隙も与えずに、ラストまでテンポよく読ませるところは、さすが辻村深月だと思わされる作品である。

 

扱っている内容や、「ひかり」の切なすぎる半生の描写に対して、諸々考えさせられて暗い気持ちになるところを最後に反転させる救いのあるラストには、少々強引さを感じさせられたが悪くないなと思った。 

朝が来る

朝が来る

 
朝が来る (文春e-book)

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