[ま]「その女アレックス」(ネタバレなし)/意外なストーリー展開にあなたは少なくとも4回はハッとする @kun_maa
表紙の絵と冒頭のストーリーから、本書を読み始めた人は皆、アレックスという名の普通の女性が路上で誘拐・監禁され、彼女の救出劇がメインストーリーのミステリーだと思うことだろう。
しかし、実はそうではない。アレックスが誘拐されることは物語のほんの脇道にすぎないのである。
この作品について、ネタバレとならないように多くを語ることは不可能だ。
そして、僕はこれから「その女アレックス」を読む人の楽しみを奪う気持ちにはどうしてもなれない。だから、内容にはほとんど触れることなく感想を書きたい。
三部構成からなる本作は、第二部まではアレックスと警察のそれぞれの視点で描かれたストーリーが、その内容とは裏腹にとても軽快なテンポで進んでいく。
交互に繰り出される比較的短い各章と、それぞれで進んでいくストーリーがどこで交錯するのだろうかとワクワクさせられる。
そのため、第一部ではアレックスは無事に救出されるのか?という緊張感に包まれることですっかり騙される。そして当然のごとく「あれ?」っとなるのだ。
ネタバレ感想を書きたくないという僕がここまで書くということは、これは本作全体から見ればネタバレのうちに入らないということだ。
誘拐ミステリーのようなスピード感で読者を引き込んでおいて、その先に用意されている全く別の意外なストーリーを展開させる第二部。なるほど、そうきましたかって感じ。
そして急展開した物語はさらに違う様相を見せることになるとともに、すべての謎が「概ね」解ける第三部。「概ね」とあえて書いたのは、この作品はミステリーながらすべての謎がすっきりと明らかにされるわけではないからだ。
真実は部分的に謎のまま。現実の世界だってそんなものだ。
本当のことはわからないままで読者の想像に委ねられる部分を残して物語は終わる。
それでも読者をモヤモヤとさせない話のもっていき方はさすがだと思う。上手い。
アレックスの心情描写にさりげなく張られた数々の伏線とその見事な回収。個性的なパリ市警の警部たちや判事のやり取りの軽妙さにも魅了される作品である。
こういう言い方はあまり好きではないのだけど、日本の作品では決して生まれないだろう独特の雰囲気をまとった、フランスの作家らしい作品に思えた。
僕が言うフランスらしいってのは感覚的なものなので、そこはどうか突っ込まずに生暖かくスルーしてほしい。
そして作品の質の高さはもちろんのこと、翻訳の絶妙さもポイントが高いのではないだろうか。
二転三転するストーリー展開に、おそらく4回はハッとさせられるに違いない。その展開の方向が一風変わってはいるが、良質なミステリー作品であることはまちがいない。
ストーリー展開の妙技に酔いしれながらも、読後感はとても切ない。そんな作品である。
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