「今回の結果は陰性です。これを教訓にして、これからはしっかりとしてくださいね」
保健所の医師は、僕になにやら説教めいた口調でそう言った。
陰性だった・・・よかった。目の前が急に明るくなった気がした。
今はどうか知らないのだけれど、その当時、AIDS検査は採血から結果が告げられるまで1週間ほどかかった。
その間、僕はもし陽性だったら・・・と考えて夜もよく眠れないほどビビっていたし、結果を聞くために保健所の廊下で待っている間は死刑宣告を待つ囚人のような気分だった。
他の部屋で結果を聞いて出てきた人は、心なしか肩を落としているように見えた。
今日、12月1日は「世界エイズデー」です。
これは1988年にWHOによって定められた国際記念日で、世界規模でのエイズ蔓延の防止、エイズ患者やHIV感染者に対する差別・偏見の解消を目的とするものです。
レッドリボン運動としても知られていますね。
医学の進歩によって、エイズは今や適切な治療さえ受ければ、必ず死に至る不治の病ではなくなりました。
そしてなぜか日本では、一時期に比べてエイズの予防に関する啓発運動が下火になっているような気がします。
マスコミで取り上げられることもないですね。
厚労省から発表される「エイズ発生動向報告」も新聞の片隅に小さく載るだけ。
みんなHIVに感染することなど忘れてしまっているように思えます。
でも、HIV感染が過去のものになったわけではありません。
まず、他の国の状況を見てましょう。
米疾病対策センター(CDC)の11月27日の発表によれば、アメリカでは毎年5万人が新たにHIVに感染し、国内のHIV感染者110万人のうち、7%程度が若者なのだそうです。そして、2010年にHIV検査を受けたのは高校生全体のわずか13%、18歳〜24歳の人口の35%にとどまっているのだとか。
ロシアの状況はさらに深刻です。
ロシアのエイズ予防対策連邦センター所長の11月28日の会見によると、ロシアではHIV感染者が毎日200人近く増えているそうです。毎日ですよ!
なんらかの対策を講じない場合、5年ごとに感染者数が倍増すると言われています。ロシアでのHIV感染者数は2012年10月末までで、約70万人。この数字は5年前の感染者数の倍だそうです。
中国では、今年の10月末までに報告されているHIV感染者とエイズ患者は、中国全土で約49万人。
タイでは1984年〜2011年11月までの累計エイズ患者数は37万6690人。
HIV感染者数は、推定100万人以上と言われています。タイの人口が約6400万人なので、この推定が当たっているとするとタイ人の64人に1人はHIV感染者ということになります。
そして、日本はどうでしょう。
厚労省の「エイズ発生動向報告」によると、平成24年9月末の状況は次のとおりです。
日本国籍 ・HIV感染者 1万1827人 ・エイズ患者 5141人
外国籍 ・HIV感染者 2621人 ・エイズ患者 1141人
合計 2万1051人(凝固因子製剤による感染を除く)
この数字を多いと見るか少ないと見るか。
ちなみに、HIV感染者とは、症状の現れていないウィルスのキャリアを指し、エイズ患者とは既に何らかの症状を発症している者を指します。
エイズ患者は、症状が現れて病院で受診することにより発見されるため、ほぼ実数に近いとされますが、HIV感染者は自発的に検査を受けない限り発見されないため、潜在的な実数はもっと多いとされています。
日本のHIV感染者の新規報告数は次のとおりです。
平成20年 1126人
平成21年 1021人
平成22年 1075人
平成23年 1056人
一見すると、平成20年をピークに多少の凸凹はあるにしても新規感染者数は、ほぼ横ばいに見えます。
でも、次に挙げる全国の保健所でのHIV検査件数を見てください。
平成20年 14万6880件
平成21年 12万2493件
平成22年 10万3007件
平成23年 10万2946件
平成20年から毎年確実に検査を受ける人が減っています。
先ほど、HIV感染者は自発的に検査を受けない限り発見されないため、潜在的な実数はもっと多いとされていると書きました。
検査を受ける人数が減っているのに、新規感染者数が横ばいということは潜在的な感染者数は増えているんじゃないかと思いませんか?
感染者が実質的に減ったのではなく、検査を受ける人が減っただけなのだと。
これだけ見ても、決してHIV感染は過去のものではなく、日本においても現在進行中の深刻な問題なのです。
どこか他人事のように思ってしまいがちですが、実はとても身近な問題なのです。
現在、全国の保健所では無料かつ匿名でHIV検査を実施しています。
日常生活で感染することはないので神経質になる必要はないと思いますが、自分は関係ないと思っていませんか?
あなたのパートナーの過去は全て知っていますか?
不特定多数の人と関係をもったりしていませんか?
僕がよく訪れるタイでは一見普通の学生やサラリーマン風の日本人が風俗店で遊んでいたり、いかにもな女性を連れて鼻の下を伸ばしているのをよく見かけます。
彼らは本当に大丈夫なんでしょうか?
日本でも、中国人やロシア人、タイ人の売春婦なんているところにはいます。
中国、ロシア、タイの感染者数はどうでしたっけ?
さて、あなたは本当に大丈夫ですか?
HIV検査を受けることは、個人レベルでは早期治療に、社会レベルでは感染拡大防止に役立ちます。
検査を受けるタイミングとしては、感染の恐れがある行為から3ヶ月以上経過していることがベストのようです。
「世界エイズデー」をただのお祭り騒ぎのイベントで終わりにしている場合じゃないと思うのですが。
[ま]ぷるんにー!(พรุ่งนี้)は、ブログ観光大使を応援しています。