突如地球に現れた巨大な宇宙船。
オーバーロードと呼ばれる異星人は地球を緩やかに統治し、戦争や人種差別や貧困もなくなる。
労働さえも自分の好きなことだけを短時間行えば生活にも困らない。
多くの者は複数の博士号を取るほど勉学に勤しみ、空間的な移動もかつてないほど楽に速く行うことができる。地球上で人類が住めない場所はなくなり、どこでも好きな場所で生活をすることができる社会。
もはや国家さえも存在意義を失くし、人類はかつてないほどの繁栄と幸福を手に入れた。
ユートピアの完成だ。
これ以上ないほどの物質的幸福と平和を得た人類の行き着く先はどこなのか。
繁栄と幸福とは裏腹に、オーバーロードの圧倒的な科学力の前に、人類は科学的な進歩を諦め、満たされた生活からは芸術や文化、宗教さえも、もはや新たなものを生み出す力を失っていく。その姿は、まるで人類がオーバーロードに飼いなされているかのようである。
人間は様々な葛藤を抱えながらも、オーバーロードが与えてくれた恵まれた世界を享受する。人類の自由な進歩と引き換えにして。
ひとつわからないのは、なぜオーバーロードは人類に対して、これほどの繁栄を与えてくれるのか。そこにはなんの目的があるのかということ。
そして、物語の進行とともに、「幼年期の終わり」というタイトルとの齟齬が気になっていく。
三部構成で展開される物語はしっかりとつながりを持ちながらも、それぞれに独立したおもしろさがある。
そして用意周到に張り巡らされた伏線。
全ての謎が解け、人類の行く末を理解し、タイトルの意味を理解した時、読者はこの作品の壮大さにあらためて感嘆することと思う。少なくとも自分は驚いた。
とても1952年に書かれたとは思えない、今読んでもまったく色あせないどころか発想の素晴らしさに恐怖すら覚える物語である。
それにしても、この作品が描く人類の究極の姿、そしてオーバーロードの真の目的とその役割を思うととても切ない。
僕はひとり地球に取り残されたような虚無感に満たされた。
間違いなくSFの傑作であり、多くの人が絶賛する意味がよくわかった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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