韓国釜山まで50キロもないという国境の島「対馬」。
それでいて、のんびりとした雰囲気の対馬南署の日常からこの物語は始まる。
韓国人観光客と島民との小さなトラブルはあるものの、事件らしい事件とは無縁の対馬警察。
そんな対馬で、ある日海岸に打ち上げられたゴムボートの残骸らしき無数の断片の発見と密入国者らしき不審な人物の目撃情報が寄せられる。
時を同じくして都内でひとつの殺人事件が発生。
その殺人事件の裏で暗躍する公安警察とその監視対象者、謎の外国人が複雑に絡みあっていく。
過去のある事件をきっかけにして同じ警察官でありながら、公安警察を憎む生粋の刑事である東弘樹。
彼がこの都内での殺人事件を担当することになったことから、公安警察との軋轢を生む。
警察内のエリートである公安の圧力に屈することなく、刑事としての使命に燃えて執念深く事件の真相を追い続ける東刑事は、やがて反目しつつも公安が追う事件へと巻き込まれ、そして事件は対馬へと導かれていく。
緊迫感あふれるストーリー展開にグイグイと引き込まれていく、とてもテンポがいい警察小説だ。
事件の背景に浮かび上がる在日朝鮮人の苦悩。
そして、盗聴、盗撮、書類の持ち出し、スパイの育成・運営、贈賄、場合によっては人が殺されても見て見ぬ振りをする公安警察の違法性と非情さ。
優秀な公安警察官だが、公安のやり方に疑問を感じている川尻巡査部長の存在。
これらに加えて、北朝鮮のクーデターやCIAの暗躍もストーリーに厚みを与えている。
やがて、すべての線が対馬で繫がり、平穏な島での前代未聞の事件が起こり、そして驚きの結末をむかえることになる。
秀逸な警察小説として楽しみながらも、公安警察の闇の部分とその存在意義について考えさせられる作品でもある。
そして、この作品の終わり方にはほんの少しだけ希望が見える。
僕は、こういうラストシーンは嫌いじゃない。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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