インドのワーラナシーという町がある。
バラナシ、かつてはベナレスと呼ばれたりもした。
ガンジス川沿いに位置するヒンドゥー教の一大聖地として有名な町だ。
僕のような旅行者のみならず、インド中から多くの巡礼者が訪れる。
路上には多くの物乞いがあふれ、旅行者を狙う怪しげなインド人たちのギラギラとした目がこちらを値踏みしてくる。
毎朝行われる信者たちの沐浴。神聖な空気が一層増してゆく明け方のガンジス川。
そんな町で僕は毎日川沿いの焼き場に通って死体が焼かれていくのを見ていた。
白い布で巻かれた死体が組上げた薪の上にのせられて焼かれていく。
まわりは僕と同じようにただボーっとそれを見つめているインド人たち。
物珍しさを隠すことなく好奇心を顔いっぱいに浮かべて人が焼かれるのをながめる外国人たち。
死体からプシューっとガスが抜けるような音。
ジューっと肉汁の焼ける音。
周囲には肉や脂そのものが焼ける匂いが川風にのって漂っている。
食べるために焼く肉とはどこか似ているようで全く違う匂いとある種の嫌悪感。
いつも同時に三体ほどの死体が焼かれている。
それでも毎日毎日、死体が途切れることはない。
そんな信者の想いなど関係ないかのようにまるでモノを扱うがごとく、焼き場の男が生焼けの死体を棒で押したり叩いたりして折り曲げていく。
頭を叩き割れて、はみ出した脳みそが焼けていく。
どんどん小さくなる死体。
空へと立ち昇る煙。
あの煙には魂がまぎれこんでいるのだろうか?
人の心も燃えてしまうのだろうか?
僕は黙ってただ見つめている。
少し離れたところで、写真を撮ろうとした外国人が周囲のインド人と揉めている。
持っていたカメラを取り上げられて興奮したインド人たちにたたき壊されていた。
なぜ彼は写真など撮ろうとしたのだろうか。
ただ目に焼き付けるだけで十分じゃないか。
焼き終わった死体は残った炭と一緒にガンジス川に流される。
そしてまた新しい死体が運ばれてくる。
僕は次々と焼かれていく死体をただ見つめ続ける。
毎日毎日、何時間も何時間も...
スポンサーリンク
スポンサーリンク

このブログを気に入っていただけたら、ちょくちょくのぞきに来ていただけるとうれしいです。そして、とっても励みになります。
RSS登録していただける方はこちらのボタンをご利用ください。