[ま]神鳥ーイビス/朱鷺(トキ)の美しさと恐怖に呑み込まれる異色ホラー @kun_maa
ほしい物リストに載せていたらいただいた篠田節子の「神鳥ーイビス」、以前から読みたかった本でした。
(今のところ)全部で3冊いただいた本のうち、最初に読み終わった本。
ファンタジー系の本で金髪の美少年美少女のイラストを描くことを専門にしているイラストレーター谷口葉子。
彼女の描くイラストは人気があるけど、出版社に便利屋的に使われることもあって最近自分の仕事に疑問を感じ始めています。何か今までとは違ったものを描いてみたいと。
そんなときに夭折した明治の女流画家、河野珠枝の「朱鷺飛来図」という作品を小説のカバー絵として描いてほしいと谷口葉子を指定してきたのが、薄っぺらいハイパーバイオレンス小説とやらを書いている作家の美鈴慶一郎。
彼もまた流行作家の地位を転落しかかっていて、これまでの軽薄なバイオレンス作品ではなく自分の代表作となるような作品を残したいと考えています。
この二人が、凡庸な画家と評価されて男との愛憎の末に凄惨な死を遂げたと言われている河野珠枝の足跡をたどっていくというのが物語の中心。
30歳を過ぎて未だに男性経験のないハイミスの葉子と、図々しくて常におちゃらけているバカみたいだけど人は悪くないバイオレンス作家の慶一郎。
この二人のやり取りの滑稽さに最初はコメディすぎるだろ!って思うほどです。
正直なところ最初の印象は、主人公の二人にはもっと真面目に取り組んでほしい、シリアスに物語を進めてほしいと思いながら読んでいたのです。
でもコミカルなほど軽快な二人の関係性があってこそ、後半の畳み掛けるような恐怖が生きてくるんだなあと読み終えた今は感じています。
珠枝の残した「朱鷺飛来図」に隠された謎。
凡庸な画家と評された明治の女流画家の代表作とも言える「朱鷺飛来図」が単なる花鳥風月風の幻想画ではないことがわかったところから物語の雰囲気は一変していきます。
薄紅色の朱鷺と寒牡丹の色鮮やかな情景。そしてその中に隠されたモノトーンの世界。
「朱鷺飛来図」と河野珠枝の謎を追うほどに深まっていく不思議な感覚と恐怖。
前半で出来上がっていた葉子と慶一郎のコミカルな関係性と、恐怖の真っ只中でもホッとするようなやり取りがせめてもの救いとなるほどの壮絶な恐怖の世界に、登場人物とともに読者までもが取り込まれていくような不思議な感覚。
朱鷺というひとつの種を絶滅に追い込んだ人間の業の深さ。
想像するとありありと浮かび上がるゾッとするほど美しい恐怖の光景と、不思議な物語世界に夢中になること必至の作品です。
ジャンルとしてはホラー作品ですが、夜にひとりでトイレに行けなくなるといったタイプの作品ではないし、ラストはたぶん意見が分かれるところだとは思うけど僕は少しだけ希望を感じたので、ホラー小説はちょっと苦手って人でも大丈夫なんじゃないだろうか。そんな感じの異色ホラー作品です。
ただ、本書を読み終えたときあなたの朱鷺(トキ)を見る目は確実に変わります。
人間に乱獲されて滅びゆく運命の、佐渡島でひっそりと生かされているかわいそうな鳥ではなくなることは間違いありません。
おすすめの一冊です。
いつの間にかKindle版も発売されていたんですね。
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