僕が若い頃にそこら中にいた「ヤンキー」はもうほとんど見かけることはない。野生生物に例えるならば、すでに絶滅危惧種だ。
従来型のいわゆるヤンキーは中年化が進んですっかりいい大人になり、現在の若者に見られるのはマイルドに変化したヤンキーなのだという。
本書は、多くの密着取材とヒアリング調査によってそんな「マイルドヤンキー」の生態を明らかにしている貴重な一冊である。
今でこそけっこう頻繁に見かける「マイルドヤンキー」という言葉も元々は著者が名付けたものである。
著者は多くのマイルドヤンキーに取材をしているが、その取材に対する彼らの態度をこんなふうに記している。
今のヤンキーたちは、気さくにインタビューに応じてくれるなど、全体的にいい人が多く、やさしくマイルドになってきているのです。犯罪に手を染める人も減っていますし、社会や大人への反抗心をむき出しにする人もめったにいません。私のインタビュー調査は、根掘り葉掘り、かなりプライベートな深いところまで聞き込みますし、彼らの家に上がり、部屋の隅々まで見せてもらうのですが、彼らにガンを付けられたこともほとんどありません。(P.18)
そして、彼らマイルドヤンキーをさらに2つに分類している。
それは、マイルドになりつつも昔ながらのヤンキー路線である「残存ヤンキー」と、昔ならばヤンキーに分類されていたはずだけど、見た目はまったくヤンキーではなくなり、人間関係が狭くて少人数の地元友達とつるむという点において、わずかに昔のヤンキーっぽさを残している「地元族」である。
人口が少なくなり、消費意欲が減っているという現代の若者たちのなかにあって、この2種類のマイルドヤンキーたちは同世代の若者よりも消費意欲のある優良消費者なのである。
ただし、優良消費者といっても彼らとて特別に所得が高いわけではない。
ただ、マイルドヤンキーなりの共通価値観にしたがって行う消費活動が、他の同世代の若者よりも多いというだけのことである。
だから、企業は彼らの本音や生態を知らないことにはどこに価値観を見出しているのかを知ることもできない。
そこで、俄然本書の存在価値が上がるのである。
マイルドヤンキーの一般的な傾向として、ITデバイスへの関心やスキルが低く(だからTwitterにバカな投稿をしたりする)、どちらかというと低学歴で低収入であり、小中学校時代からの狭い人間関係の友人たちとずっとつるんでいたがるというもの。
その基底にあるのは、地元での生活や地縁をキープできるような消費ならば喜んでする、という強固な消費意識です。そして前述したとおり、同世代の一般的な若者たちよりも総じて消費意欲が旺盛で、優良な消費者だということです。(P.28)
彼らの発する次のような言葉は正直僕には理解できない。もうおっちゃんだしな。
例えば「給料が上がっても絶対地元を離れたくない」「イオンは夢の国。イオンに行けば何でもできるんです」「東京に行く意味がどこにあるんですか?」「困らない程度に稼げて、地元の友人との時間をちゃんと確保できれば、それでいい」 etc.
ちなみに、彼らの言う地元とは本当に狭い範囲を指していて、せいぜい5km四方程度。同じ23区内でも、地元とは呼ばない。そして、地元を連呼する割には、その土地に対する愛着(郷土愛ってやつ)があるわけではなく、中学生時代と地続きの「居心地の良い」仲間と生活をキープしたいだけなのである。一番重要なのは「現状維持」なのだ。
都心の高感度層・高学歴層の若者が、ケータイやソーシャルメディアによって広がった人間関係をメンテナンスするための社交消費、具体的にはカフェ代や飲み会代といったような頻繁な小さい消費に追われて、「モノ」を買わなくなっている現状に比べ、マイルドヤンキーは車、タバコ、ショッピングモールでの買い物などで消費をしているのです。(P.31)
マイルドヤンキーは人間関係が狭いので、高感度層・高学歴層などが人間関係のメンテナンスに使うお金に比べてその手の経費が少なくて済むので、相対的に自分の趣味や嗜好品にもお金をかけることができるのだという。
彼らの消費はギャンブルとの親和性が高く、アニメやキャラクターとEXILE、西野カナが人気。
喫煙率は高く、飲むときはビールよりも焼酎。
ルイヴィトンやグッチ、コーチなどの高級ブランド品も大好きだけど、パソコンやケータイなどのITガジェット系には興味なし。スマホ率は高いけど、特に欲しかったからというわけではなく、店員に勧められたり、流行っているからという理由のため機能は使いこなせていない。
車はなんといっても仲間や家族など大人数で乗ることができるアルファードやエルグランドなどの大型ミニバンが大人気。
もちろん地元友達とのコミュニティーが一番大事で、それを乱すやつは許せない。そして根強い大学生コンプレックス。などなど。
こんな彼らの行動パターンを利用して、彼らのニーズに合ったモノを提供すればいいってわけ。
それは、たとえば「ネット通販で中古のブランド品を安く買える携帯用のアプリ」それもUIはとても簡単に操作できるようにしたものであったり、「ベース車の装備は極限まで簡素化して安価に設定し、自分で好きな部分をアレンジできる大型ミニバン」であったり、「親子おそろいのニコイチ・サンコイチ高級ブランドの洋服」であったりするのかもしれない。
マイルドヤンキーの定義づけから、行動パターンやその生態まで、多くのインタビュー調査を基にして明らかにし、優良な消費者として捉えた場合の彼らの特徴的な消費活動について考察した上で、彼ら向けの商品やサービスのアイデアまで提供しているという貴重で太っ腹な本である。
とてもおもしろい本なのだが、要するにモノが売れない時代に今度はマイルドヤンキーをカモにしていこうぜ的な大人の思惑がガチで感じられ、それはそれでまた別のおもしろさを含みつつもなんだかちょっとアレな感じが切ない。
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