椎名誠といえば豪放磊落、酒好きな仲間たちといろんなところへ出かけて行って大いに喰らい、大いに飲み、挙げ句の果てに貪るように眠るというイメージを抱いていたのだが、どうやら違うようだ。
ただ、本書を読むと旅先ではけっこうまともに眠れているようなので、僕の椎名誠に対するイメージもあながち間違ってはいないということになる。
問題は、普段の生活での不眠症にある。
その日、どのように寝入ることができるか、ということが絶えず頭のどこかにある。体が疲れていてもすんなり寝入ることができないのが恐ろしいのだ。なにか毎日、そんな賭けをしているようなところがある。
負ければ、寝入るタイミングを逃して、むなしく本など読んでいるしかない。それ以上原稿仕事を続けるには確実に体や脳が疲れすぎている、ということがわかっているからだ。
翌日、決められた時間に起きなければならない、ということがないかぎり、それでもいい。でもどこか旅に出るために決められた時間に起きないといろいろまずい、というときは「睡眠薬」を飲む。敗北感のなかで飲む。(P.11)
この気持ちは僕もわかる。うつがひどい時は僕も不眠症だったから。
そう、眠れないとなぜか焦りとともに敗北感が現れるんだよね。不思議なことに。
それでも、彼の場合は睡眠薬を飲むことでかなり上手に睡眠をコントロールできるようなので、それほどひどい不眠症とは思えなかった。
よく読めば、旅先だけではなく普段の生活でもそこそこ眠れているみたいだし。
ただ、これはやっぱり不眠症になったことがないとわからないと思うのだが、本人にしてみれば深刻なのである。
眠ることばかりを考えすぎて、余計眠れなくなるというよくわからない状況にも陥る。
僕の場合は完全にストレスとうつ病から不眠になったのだが、椎名誠の場合もやはりストレスが発端のようだ。
こういっては大変失礼だけど、ストレスという言葉が似合わない人だけに、やっぱり意外だった。サラリーマンを辞めて独立するか否かという悩みからくるストレスが発端。
そして、実際に仕事を辞めてからの生活スタイルの激変による不眠の悪化。
そこに追い打ちをかけるように起こった見知らぬ女による深夜の来訪事件。これは読んでいて背筋がゾワゾワするほど気味が悪くて怖かった。
この本を読んでも、不眠に悩む人の助けにはならない。
椎名誠の不眠との闘いと、本人が調べたことの受け売りが書いてあるだけだから。
椎名誠の椎名誠による椎名誠のための35年間にわたる不眠症との付き合いと、つらつらと考えたことが書いてあるだけだから、今、実際に不眠症で悩んでいる人の役には立たないのである。
だから、この本は著者の他の作品とは趣を異にする一冊として楽しむための本なのである。そうとしか思えない。
ひとつだけ不眠に悩む人の参考になるとしたら、アルコールで眠ろうとするのではなく、睡眠薬を上手に使って睡眠をコントロールする方がよく眠れるし、身体にもいいってことくらいかな。あとは自分で安眠の方法を見つけ出すしかないんだ。
著者も最後にこう書いているくらいだからね。
風邪や腹痛といった対処療法のある問題ではないから、医者でも実際のところ「何をどうする」ということはわからないのではないか、と思う。
勿論ぼくにもわからない。それぞれ苦悩し、自分でなんとか精神が楽になる道を模索していくしかない、というのがぼくの結論である。テキは自分なのだから。(P.193)
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