[ま]映画「白ゆき姫殺人事件」/人は自分に都合のいいことしか語らない @kun_maa
2014年3月公開の日本映画。
原作はあの「告白」の湊かなえだが、僕は原作を読んでいない。
出演は井上真央、綾野剛、小野恵令奈、貫地谷しほり、谷村美月など、けっこう実力派の若手を集めている。モデルの菜々緒の初出演映画としても話題となったけど、個人的には小野恵令奈が超かわいかったなあという作品。えれぴょん、なんで引退しちゃったんだろう?もったいないよな。
まあ、それはとりあえず置いといて作品の感想を少し。
社内でも評判の美人OL三木典子(菜々緒)が刃物で滅多刺しにされて死体を焼かれるというセンセーショナルな事件が長野県内の国定公園「しぐれ谷」で起こる。
その直後に姿を消した同僚の城野美姫(井上真央)が怪しいとの情報を、同じ化粧品会社に勤務する友人から掴んだ映像製作会社の契約社員赤星雄治(綾野剛)は、業界で這い上がるチャンスとばかりに、単独で関係者への取材を行いつつ、ネット上で不確定な情報を拡散していく。
交錯する情報と、さまざまな憶測。
城野美姫の過去をほじくり返して、あたかも彼女が犯人であるかのような報道を続ける赤星とそれを無検証で垂れ流すワイドショー、いわゆる関係者の証言と呼ばれる無責任であいまいな決めつけ、ネット上での無責任な書き込み。それらの紡ぎ出す「事件の真相」とやらはひどく居心地が悪く不安定で、彼女が犯人に違いないと決めつける人々も、彼女を擁護する人々も同じ穴のムジナである。
証言を集めれば集めるほど城野美姫が怪しいという印象を誰もが持つ(観客でさえ)のだが、そもそもその取材方法には偏向性があるのではないか。そして誰もが自分には不利な証言はしないのではないか。という問題点が浮かび上がってくるとともに、真実は藪の中へと消え去っていくように感じる。
それは赤星による取材をもとにした関係者の無責任で勝手な証言により事件が語られ、「事実」と思しき断片が寄せ集められ、偏見という接着剤でつなぎ合わされていくという足元の不安定さによるものである。
城野美姫は本当に三木典子を殺したのか?そうでないのなら、なぜ彼女は姿をくらませたのか。その真相らしきものがわかるのは作品が始まって1時間以上が過ぎた頃にようやく取り上げられる城野美姫の視点である。
誰もが自分の視点からしか物事を見ることはできない。さらに、記憶は自分の都合の良いように捏造され、語る言葉からは自分に都合の悪いことは抜け落ちていく。
隣の芝生は青く見え、自分の不幸は誰かのせいであると信じ、誰もが傷つきながら悲劇は加速していく。
ネットは真実を暴く?ネットは冤罪をつくる?
いったいなんの冗談なのか。苦笑いさせられる。
一見すると、人を貶めて要領よく生きる人間だけが得をしていいのか?そんな人間死んで当然、まじめに生きていればいいことあるさという虚しいメッセージを放っているように見えるかもしれないが、そんな薄っぺらなつまらない正義感ではなく、もっと人間の薄汚いドロドロとした情念のようなものと身勝手さを感じさせられる作品だった。
城野美姫の小学生時代の友人である谷村夕子(貫地谷しほり)が赤星に向かって言った言葉が耳に残る。
いいかよく聞け。人の記憶ってのは捏造される。人は自分の都合のいいようにしか記憶を語らねえ。大切なことは見逃すな。
一応、ミステリー作品なので多くはないけど伏線も張られている。それほどたいしたものではないので気付かなくても特に影響はないと思うけど。
ミステリー作品ではあるけれど、現代社会に対する皮肉に満ちた意外と深い作品である。
あまり期待はしていなかったけどおもしろかった。
肝心の事件そのものは、わかってしまえばしょぼいものだけどね。
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