[ま]自分でつくるセーフティネットー生存戦略としてのIT入門/「善い人」であることがセーフティネットとなる時代 @kun_maa
昭和の時代の会社組織に代表されるような「理の世界」と「情の世界」が上手く働いている社会は、しがらみで息苦しくて抜け出したいと思わせる空気がある反面、「情の世界」というセーフティネットが機能していたある意味では気楽な社会だったというのが本書の問題意識のスタート地点ともいえる。
その「情の世界」が乏しくなり、会社の終身雇用は崩壊し、若者は非正規雇用に追いやられ、そもそも「情の世界」の土台となる部分が形成されない状況となっている。さらにグローバリゼーションという極めつきの「理の世界」が押し寄せて、今まで存在するのが当たり前と思っていた日本人のセーフティネットはもう存在しないのかもしれない。
だからといって、今さら昭和の時代に戻ることなどできるわけもない。
ならば、「理」だけが勝って「情」がない世界で我々は生きていけるのかと問えば、そんな冷酷な社会で生きていけるのはほんの一握りの人たちにすぎず、その他大勢である我々は生きていけないでしょ?だから今こそ新しい「情の世界」が必要なんじゃないですかっていうのが本書の提案である。
まず、新たな「情の社会」を考える上で前提となる、社会の大きな変化について本書は次の2点を挙げている。
ひとつは、セーフィティネットが見えにくくなったこと。ふたつめは情報技術の発達で我々の人生に隠しごとがしにくくなった「総透明社会」の到来である。
セーフティネットが見えにくくなったというのは、冒頭で書いた「情の世界」の崩壊によるものである。会社とか商店街とか同業者組合とか、安心感を生み出す強固なムラ意識を共有していたものが存在し得なくなってきているという現実。
終身雇用も年功序列も今や夢物語のようになってしまった不安定な社会には当然、それまでの組織が担ってきた安心感は存在しない。いや、できないといった方がいいのだろう。
そして一見、監視社会のように思われる「総透明社会」については、実は個人情報を無駄な宣伝費をかけない為の足切りに使うような格差社会を強調した企業からの「黙殺社会」へと繋がっていく可能性があると警鐘を鳴らす。要は、貧乏人と金持ちとでは本当の意味で見える社会が違うということ。考えただけで気持ちが寒々とする。
そんな社会を生き抜く為に本書が提案する生存戦略が、新しい「情の世界」の構築であり、具体的にはフェイスブックのようなSNSを活用して自発的に表現を発信していくことで「弱いつながり」を構築していくことである。
「弱いつながり」の価値は、同調圧力から逃れ、共通点の少ない非対称なつながりによる新鮮な情報の流れにある。この「弱いつながり」を大切にして、多くの人とゆるくつながっていくのが新しい「情の世界」であり、セーフティネットなのだと著者は述べている。
それは次のように表現されている。
たったひとりの友人が、困った人を自分だけの力で助けようと思ったら無理でしょう。でもひとりの個人を、二十人や百人で助けることはできるかもしれません。そういうことなんですよ。
だから弱いつながりをネットの力も借りてつくっていって、ちゃんとメンテナンスしていく。それがね、これからのリストラ社会を生き延びるために必要な知恵であり技術である、ということ。何度も言いますが、これこそが新しい「情の世界」であり、新しいセーフティネットになっていくということなんですよ。
さらに、その新たな「情の世界」で重要になるのが「善い人」であるということであり、それこそがすべてが白日の下に晒される「総透明社会」において自分でつくる最強のセーフティネットとしての生存戦略に欠かせないものなのである。
総透明社会では、自分の善い面をちゃんと出して生きていくのが大切。だからこそ見知らぬ人とも信頼しあえるし、将来に役立つ弱いつながりもつくれる。昭和の昔は、「善い人」ってのは、単なるお人好しで損する人だっていうようなイメージもありました。でも自分の行動が丸見えになってしまういまの時代には、善い人のほうが最後には必ず人生で得をするようになってきた。
「善い人」っていう意外な単語が重要になってくるわけだが、最後まで読み進めると、この「善い人」って言葉がピュアな存在ではないということにまで言及されて、なるほどなって感心することになるのだが、そこはぜひ本書を手に取って読んでみて欲しい。
変化がめまぐるしく、格差も広がる一方のこの社会で、自分自身の生存戦略を考える上でぜひ読んでおきたい一冊である。
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