ROLEX(ロレックス)。言わずと知れたイギリスの超高級腕時計だ。
自慢じゃないが、僕は一度も自分のロレックスを持ったことが無い。
香港で買った偽物ロレックスは持っていたけど、1ヶ月で壊れた。
僕が一時期、ヒモのような生活をしていた頃、一緒に暮らしていた女性は本物のロレックスをいつも身につけていた。
彼女はスナックをやっていて、僕は仕事をしていたけど、僕の給料は養育費や自宅のローン、そのとき住んでいたマンションの家賃で消えてしまい、日々の生活は彼女にみてもらっていた。
毎日の食事も2人で遊びにいく時も、旅行も金銭的には全て彼女に頼りきりだった。
彼女のスナックは、最初の頃はある程度儲かってもいたけれど、景気の悪さも手伝って次第に儲からなくなっていった。
儲からなくなった理由のひとつは、僕のみっともない嫉妬のせいで、彼女が上客を逃してしまったことだ。
そう、僕のくだらない嫉妬がせっかく彼女が掴んだ上客を何人も逃がしてしまった。
明らかに男がいて、落とせる見込みがない夜の女に金をつぎ込む男はいない。
僕はヒモには向いていない。
仕事で彼女が他の男とベタベタするのが耐えられなかった。
これは「仕事」と割り切れない男はヒモとして生きる資格が無い。
そんな時の僕のことを彼女はいつも哀しそうな目で見つめていた。
そんなこともあり、2人の生活はだんだんと窮していった。
ある日、どうしてもその日を越すお金すら無くなり、彼女のロレックスを質に入れることになった。
カードローンで借金をするのは心が痛まないのに、品物を質入れして借金をするのはなぜあんなに心が痛んだのだろう。
ひとつには、彼女にとって愛着のある時計だったこと、もうひとつはそれが僕の物ではなかったからだと思う。
とてもみじめで悲しかった記憶がある。
質屋は彼女のロレックスに50万円の値を付けた。
僕らにそのお金を返すあてはなかった。
毎月少なくとも利子だけは返済していれば、預けた品物は質屋から消えることは無い。
でも、それすらできないほどにその頃の僕らはお金に困っていた。
彼女は、数ヶ月間はわずかな稼ぎの中からこっそりと返済をしていたようだった(僕に気を使って彼女は何も言わなかったけど)。
でも結局、彼女のロレックスは質流れしてしまった。
あのロレックスが彼女の元に戻ることはなかった。
あのロレックスは今、どんな人の腕におさまっているのだろう。
ROLEXの文字を目にするたびに、僕はあの頃の辛くて哀しくてそれでも幸せだった生活を思い出す。
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