これは1986年の作品である。
1986年の世界はどんな感じだったか。
1985年にゴルバチョフがソ連の書記長に就任し、米ソの緊張関係が解消され始めていた。核兵器縮減の気運が高まり、1987年にはレーガンとゴルバチョフが中距離核戦力全廃条約に調印したというそんな時代だった。
そして1986年の4月26日にはチェルノブイリの原発事故が発生した。
イギリスの片田舎。ジムとヒルダの老夫婦は2人きりで平穏な老後の年金生活を送っている。ラジオから流れるニュースに耳を傾け、新聞記事をネタに他愛のない会話を語り合う幸せな2人。
平凡だけど、静かで幸せな生活はいつまでも続くかのように思えた。
まさか、あんなにも簡単にその生活が崩れ去るとは思いもせずに・・・
ある日、核戦争が近づいていることを知ったジムは政府が配布したガイドブックにしたがって、簡易な核シェルターを家の中に作った。
ドアのペンキが剥がれることや、家の中が散らかることを嫌がるヒルダ。
あくまでも、日常生活が大事でなんの深刻さも感じていない。
事態は急速に深刻さを増しているはずなのに、政府の言うことだからと一応準備を進めるジムと、どこか他人事のように日常生活を大切にするヒルダ。
そして、ラジオが敵国からの核ミサイル攻撃を告げた数分後、ものすごい爆風と熱が2人の家を襲う。
戦争の相手国も、核兵器も、放射能のこともよくわかっていない平凡な老夫婦に訪れた恐ろしく静寂な世界とわけもわからず弱っていく身体。
最後まで政府を信じ、神に祈り、核兵器の放射能により弱り死んでいく老夫婦。
特にジムは、どんなに酷い状態になっても、政府が自分たちを助けてくれることを信じて疑わない。
戦争を起こしたのも、役に立たないガイドブックを配布したのも当の政府だというのに。
自分たちを殺すものがなんなのかも理解しないまま死んでいく。
あまりにも切ない作品だ。
そして、26年の歳月を経た今でもまったく色あせないテーマでもある。
あまりにも無知で、政府の言うことを信じて疑わない善良な老夫婦の姿が自分たちに重なって見える。
この26年間、我々はいったいなにをしてきたのだろうか。
この映画からなにも学ばなかったのだろうか。
ねえ、僕たちは本当に進歩しているのだろうか。
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