帰国してからも、何度かTaaから電話があった。
僕からも声が聞きたくなって何度か電話をした。
[ま]たとえ本当の恋じゃなくても/そして泣いたのは僕だった @kun_maa - [ま]ぷるんにー!(พรุ่งนี้)
国際電話は高いからメールにしなよと言っても、Eメールの使い方もSMSも彼女には理解できない。
設定を説明できるほど僕のタイ語は上手くない。
ましてやTwitterやFacebook、SkypeやLINEなんて・・・
SkypeとLINEは僕も使ってないからわからないんだけど。
せっかくSamsung Galaxyを買ってあげたのに。
こんなことなら買った時に設定しちゃえばよかったと思ってもあとの祭り。
電話での会話はたわいもないものだったけれど、声が聞けて本当にうれしかった。
今なにしてるの? ご飯食べた? 仕事はどう? 今度いつタイに来れるの? 会いたいね 恋しい 大好き 仕事がんばってね 私のこと愛してる?
ますますTaaのことが好きになっていく自分がいた。
タイから帰ってきて、心にぽっかりとあいた穴が毎日大きくなっていき、なぜあのとき僕は逃げてしまったんだろうと後悔さえしていた。
仕事をしていても、家族といてもなんとなく上の空。
自分の気持ちがコントロールできなくて、Taaに会いたくてどうしたらいいのかわからずに落ち込んでいく。
僕のモレスキンは、Taaへの気持ちと混乱する自分の言葉でページが埋め尽くされた。
彼女に夢中になっていく自分が恐くて、3日間、僕は電話をするのをやめた。
Taaからも電話はなかった。
やっぱり我慢できない、声が聞きたい・・・今日は電話しようと決めていた。
そんなとき、Taaから電話がかかってきた。
うれしくて、少しはしゃぐ僕にTaaは話があるんだけど、電話代がないから僕からかけ直してくれないかと言った。
すぐにかけ直した僕に、彼女はこう言った。
毎日雨が降って仕事ができないからお金がない。
風邪を引いて熱があって具合が悪い、頭痛もする。
私には病気のお母さんもいる。お金が必要なの。
私のことを好きなら、日本からお金を送ってほしい。
今から銀行の口座を言うからメモして。
銀行の口座は◯◯銀行の△△◇◇・・・・わかった?
僕は言われるままに、メモした銀行名と口座番号を復唱した。
満足そうに彼女は電話を切った・・・
僕は一方的に送金の話を進める彼女の話を聞きながら、自分がいかにマヌケで考えが足りなかったのか思い知った。
彼女はたぶん嘘をついている。
いつもより早口で、落ち着きがない。
早口すぎて僕が何度も聞き返すと、イラついているのが伝わってきた。
でも、嘘をついていようがいまいが、僕に彼女を責める資格なんてあるわけがない。
僕は健気に働く彼女の笑顔が好きで、楽しそうに話す彼女のタイ語が耳をくすぐるように流れてくるのが心地よかった。
自分勝手に盛り上がり、そこに愛を感じたような気になっていた。
そう、空港で彼女の声を聞きながら泣いたように。
日本からふらふらと遊びにきた日本人。
毎日自分の言うがままに店で金を使ってくれる。
洋服やバッグも携帯も、欲しいと言えば買ってくれた。
食事もディスコにも、友達や姉もいっしょに連れて行ってくれた。
どうやらこの男は自分のことを好きらしい。
バンコクの底辺に近い、出稼ぎ労働者くらいしか立ち寄らないような、路上にござを敷いただけの店で働いている彼女にとって、そんな男と仲良くなることは生活の糧を得ること以外のなにものでもなかったんだと思う。
自由に外国を旅することができるような人間が、好きな女のために金を出すのは当然のことだ、生活の面倒を見るのは当たり前だ、田舎にいる家族のためにお金を出すのも当然のことだ。
そう考えることは悪いことでも何でもない。タイじゃよくある話だ。
僕がうかつだった。少しでも冷静に考えればこうなることは想像できたはずだ。
タイ人女性やその家族を金銭的に援助している日本人も見てきたし、財産をむしり取られているとしか思えないような日本人もいた。
僕は時に、彼らのことを心の中で笑ってバカにしていたはずだ。
出稼ぎで働くことで田舎の家族を養い、生きることに精一杯の彼女にとって、甘ったれた言葉だけの愛なんてクソくらえだろう。
愛=金が当然だ。「好き」の言葉なんかじゃ食べていけない。
心のつながりを求めた男と、金のつながりを信じた女。
最初から見ている方向が違っていたのに。
3人の子持ち、休職中に貯金を使い果たした僕に彼女を助ける余裕なんてないことは自分が一番わかっている。
彼女にはきちんと謝って、お金を送ることはできないと断ろう。
僕のせいで彼女に期待をもたせてしまい、今度はそれを踏みにじり傷つける。
自分の身勝手なマヌケさに愛想が尽きた・・・
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