こんにちは!旅も好きだけど本も大好物な男 @kun_maa です。
さて突然ですが質問です。
ある飛行機会社の社長が、従来のレーダーではキャッチできないほど速い飛行機をつくろうと、1000万ユーロを注ぎ込んだ。ところがそのプロジェクトがすでに目標を90%達成したとき、スピードも経済性もさらに高い同種の飛行機を、他社がすでに市場に出したというニュースが飛び込んで来た。ここで次の選択をしてください。
あなたがこの飛行機会社の社長だとして、プロジェクトを完遂するために残りの10%を投資するか否か。
この質問には、85%の人が「イエス」と答えているそうです。あなたはどうですか?
ところが、質問を次のように変えると、どうでしょう?
すでに使ってしまったお金は置いておいて、ライバル会社の飛行機には明らかに劣る飛行機を仕上げるために、あと100万ユーロの追加投資をしますか?
このときは、投資すると答えた人は17%まで落ち込んだそうです。
最初の質問では「今まで使ったお金が無駄になる」という、損失を回避しようとする意識のトラップのせいで、合理的に考えれば将来の事業の成否を考えて投資すべきであるはずなのに、それができなくなってしまっているのです。
「世界は感情で動く」
サブタイトルが「行動経済学からみる脳のトラップ」とあります。
私たちは、自分では合理的な決定や行動をしているつもりでも様々な脳のトラップに陥っています。
例えば、
・8つの数字の掛け算を、数字の小さい順と大きい順とで分けて5秒で暗算をさせると、回答する数字の大きさに影響がでる(アンカリング効果)
・同じワインを価格を変えて提供するだけで、多くの人はその味の評価を変える(ハロー効果)
・集団に対して簡単な問題を出し、自分以外の人がみな明らかに間違っている回答をしていると、自分の回答に自信がなくなり間違っている回答が正しいと思ってしまう(集団思考のトラップ)
ここに挙げた例のようなことは、人間が常に合理的な考えと行動をとる生き物であればあり得ないものです。
でも、多くの人間はこのような不合理な行動を数多くします。
それは、人間が意思を決定したり、判断するときに常に厳密な論理で一歩一歩答えに迫るアルゴリズムとは別に「直感」で素早く結論を出すからなのです。
では、具体的にどのような状況でどのような非合理的な行動や判断をするのかをわかりやすく扱っているのが本書です。
目次からいくつか項目を拾ってみましょう。
・予言どおりに銀行は倒産した(予言の自己成就)
・つらい検査が快適になる方法(ピークエンドの法則)
・「まだ半分もある」と「もう半分もない」(フレーミング効果)
・偶然にも規則があるはずだ(偶然に秩序を見る)
・ショッキング度で決まる重大事件(統計より感情)
・バーゲンセールの「からくり」(アンカリング効果)
・他人には辛く、自分には甘い(帰属のエラー)
・占いはどうして当たるのか(バーナム効果)
・ペニスは10人中9人が平均より長い!?(自信過剰)
・ダイエットは明日からはじめよう(プランニングの誤り)
・「あの飛行機に乗ってさえいたら」(後悔の理論)
どうでしょうか。なかなか興味深い項目でしょ(これらはほんの一部です)。
本書で取り上げられている事例や研究結果を読んでいると、私たちの考え方や行動、直感がやらかす典型的なエラーや事実に驚かされます。
それらの事実を知っても、我々は完全に脳のトラップから逃れることはできません。
なぜなら、これらのトラップの基となるヒューリスティックは私たちが生きていく上で必要なものだからです。
だって、全てのものごとを常に論理的に考え抜いて判断・行動しなければならないとしたら私たちは一生頭の中で計算ばかりしていなくてはならなくなり、何かを把握することだけで大仕事になってしまいます。
それでは、とても忙しすぎて生きていけなくなってしまいます。
だからこそ、ヒューリスティックという「直感」でものごとを判断・行動する仕組みが備わっているのです。
人間である以上は、ヒューリスティックのバイアスから逃れることはできません。
しかし、そのヒューリスティックが引き起こす脳のトラップの傾向と対策を知ることは、本能からくる非合理性をコントロールし、内的葛藤を抑制しながら有益な行動をとるために必要不可欠であり、知らずにいるよりもずっと多くの誤りから今後の生活を救ってくれるはずだと思います。
この本は、毎日私たちが自分自身や周囲の人たちを陥れている「脳のトラップ」に対抗するための手頃な武器として、なかなかおもしろい本だと思いました。