[ま]ぷるんにー!(พรุ่งนี้)

ぷるんにー(พรุ่งนี้)とはタイ語で「明日」。好きなタイやタイ料理、本や映画、ラーメン・つけ麺、お菓子のレビュー、スターバックスやタリーズなどのカフェネタからモレスキンやほぼ日手帳、アプリ紹介など書いています。明日はきっといいことある。

[ま]書くことについて(スティーブン・キング 著)を読んで @kun_maa

あのスティーブン・キングが書いた文章読本である。

モダンホラーの巨匠にして稀代のストーリーテラーであるキングが綴った小説の書き方についての本がおもしろくないわけがない。

書くことについて (小学館文庫)

 

小説の書き方についての技術的な本であるのと同時に、本書は「書くこと」について彼の体験を通して得てきた考え方を述べている本でもある。

したがって、はじまりは彼の貧しい子供時代から売れない不遇の時を経て、ベストセラー作家になるまでの半生の回顧録ともいうべき内容となっている。

自伝とか回顧録なんてのは調子のいいことばかりが自慢げに書かれているとうんざりするものだが、そこはやはりキングである。ユーモアたっぷりに、時に自虐的にそして辛辣な表現を用いながらも誠実に語りかけてくる文章にどんどん引き込まれていく。

 

僕はキングがアル中でジャンキーだったとは本書を読むまで知らなかった。しかもアルコールとドラッグに溺れながらも「シャイニング」や「ミザリー」、「クージョ」などの傑作を書いていたとは驚かされる。

そんな自分の醜態すらもキツい表現を交えながら読者を楽しませてくれるサービス精神旺盛なキング。更生できて本当によかった。

作家であるかどうかは関係ない。ヤク中は単なるヤク中でしかなく、アル中は単なるアル中でしかない。作家であれ誰であれ、どこの馬の骨とも知れないヤク中やアル中と分けて考えなければならない理由は何もない。鋭敏すぎる感受性を鈍らせるためにドラッグやアルコールが必要だというのは、自己弁護のための陳腐な戯言でしかない。

 

文章を書くために必要なスキルについて、またストーリーやテンポの捉え方や推敲の大切さなどについて述べる段になると、具体例を多く挙げながらやはりスパイスのたっぷりと効いた言葉を織り込みつつ決して攻撃的で嫌味な感じにはせずに、ユーモアたっぷりにやさしく語りかけてくるのもとても魅力的だ。

大切なのは受動態や副詞の多用で格好をつけた文章を書くことではなく、余分なものをそぎ落としてシンプルに書くことであり、書くことの基本単位はセンテンスではなくパラグラフであり、プロットなんぞに気をとられずに登場人物に息を吹き込み自然にストーリーができていくようにすることである。他にもあるけどあとは実際に本書を読んでキングの言葉に触れてほしい。

書くことを生業にするために必要なことはすべて書いてあると言っても過言ではない。こういう表現はキングに言わせれば失格なんだろうけど。

 

冷静にやさしくわかりやすく書かれている本書だが、時折見せる「書くこと」に対する想いはとても熱い。

ものを書くときの動機は人さまざまで、それは焦燥でもいいし、興奮でも希望でもいい。あるいは、心のうちにあるもののすべてを表白することはできないという絶望的な思いであってもいい。拳を固め、目を細め、誰かをこてんぱんにやっつけるためでもいい。結婚したいからでもいいし、世界を変えたいからでもいい。動機は問わない。だが、いい加減な気持ちで書くことだけは許されない。繰り返す。いい加減な気持ちで原稿用紙に向かってはならない。

 

そして、作家になりたいのなら絶対にしなければならないこと。それはたくさん読んでたくさん書くこと以外はないと言い切る。その代わりになるものも近道もないのだ。

「書くこと」に対する熱い思いや、やるべきことを丁寧に綴りながらもその言葉に説教くさいところはない。ベストセラー作家でありながら(だからこそ)、上から目線で偉そうに語らないキングの文章は心理的にもスッと入りやすく分かりやすい。

 

最終章で語られるが、彼は本書の執筆中に交通事故で死にかけている。

そしてその生死の境をさまよった経験からあらためて書くことの意味について次のようにその思いを真摯に述べている。

ものを書くのは、金を稼ぐためでも、有名になるためでも、もてるためでも、セックスの相手を見つけるためでも、友人をつくるためでもない。一言でいうなら、読む者の人生を豊かにし、同時に書く者の人生も豊かにするためだ。立ちあがり、力をつけ、乗り越えるためだ。幸せになるためだ。

 

前半で「ものを書くときの動機は問わない」としていた彼の心境を変えてしまうほどの臨死体験とそれを乗り越えてきたからこそ書ける言葉が心に刺さった。

 

小説家になりたい人はもちろん、そんな気はさらさらない人でも一気読み必至なおもしろい文章読本だった。

スティーブン・キングのファンはもちろん、そうではない人にもおすすめである。 

書くことについて (小学館文庫)

書くことについて (小学館文庫)

 
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